11/29のツイートまとめ

tiarnu

ほう。。。結婚するのか・・・そりゃまずいなw
11-29 22:23

チアーヌさんの2017年1月:結婚する2月:ラブラブな毎日3月:Twitterに夢中4月:犬と仲良くなる5月:Twitterに夢中6月:なくしたものが見つかる7月:素敵な出会い#2017年あなたに起こる出来事https://t.co/N8WgqK6Gox
11-29 22:22

シナモンロールで癒された^^甘いものって大事ね^^
11-29 20:39

まぁでもわたしは「焼き鳥は串から外す派」の人だから今度からは一緒にいる人に聞いて自分の分だけ串から外すことにしようっと。あと、気心知れない人とは焼き鳥屋に行かないことにするー。飲みたいだけなのに面倒な雰囲気になるのが実は一番嫌。あ、気を使わなくちゃいけない人がいるときは別ね。
11-29 20:25

癒されようっと。今日の晩ご飯。シナモンロール^ ^ https://t.co/pMA9RCtI01
11-29 20:06

いちおーがんばってきたつもりなのに。。。全否定された気分になった。何あのコメント欄。怖い。だったら自分できるのかよ。子供できたらどうするつもりなんだ。自分できないなら彼女ができたほうがいいに決まってるだろ。育児をなんだと思ってるんだー
11-29 18:46

手作りクッキー作ってくれるとかマフラー編んでくれるとかさ~~そういうママになりたかったがなれなかった。そのほうがいいに決まってるだろ。AとBに謝りたい。
11-29 18:44

だってわたしとか悲惨よ。うちの息子AとBに聞いてみるといいのだ。。。
11-29 18:41

某ツィートのコメント欄見てたら「そんなに家庭的な女子が嫌いか?君らはそんなにママが嫌いなのか?」と小一時間問い詰めたくなった。わたしはあまり家庭的でないため、裁縫が上手くケーキを上手に切りわけソーイングセットを持ち歩く女子が好きですけどね。そのほうがいいに決まってるのに。
11-29 18:39

その店、行かなーい。。。
11-29 15:59

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11/28のツイートまとめ

tiarnu

日本人がまったく知らないアメリカの「負け犬白人」たち https://t.co/7ZebeMIHTm #現代ビジネス
11-28 23:59

風呂ってこよ
11-28 20:46

いつも大体思い付きだけで行動しちゃう。。。。
11-28 20:11

晩御飯は焼うどんでした
11-28 20:11

[dブック]0距離からの初恋模様 https://t.co/YaefLVRzkJ
11-28 13:52

(短編小説)スペース・ウォーク https://t.co/TX2MN9Nuxf ブログ版 再掲
11-28 13:09

(掌編小説)メール・フォリア https://t.co/whr4QEShM4 ブログ版 再掲
11-28 12:59

(短編小説)マリアライフ https://t.co/EapgZkAQHD ブログ版 もしかして初めて出すか?書いたのはずいぶん前。ちょっとごつごつしてるかな、文章。
11-28 12:54

(短編小説)腐乱したい https://t.co/IDYLIcNQKb ブログ版 再掲
11-28 12:41

引っ込めてた作品いくつかブログに再掲します。前にも載せてたやつですが。
11-28 12:33

(短編小説)スペース・ウォーク

タイトル「スペースウォーク」(四百字詰め原稿用紙五十四枚)

                       乃村寧音(チアーヌ)              


 宇宙人とは、新宿のロックバーで出会った。
 初めて会ったとき、彼はトイレの前で煙草を吸っていた。なぜ宇宙人なのかというと、わたしを宇宙に連れていってくれたからだ。だからそういうことにしておこうと思う。名前は知らない。
 ダンスフロアを出てトイレに向かって歩いていたら目が合った。彼がこちらをじっと見ていたのだ。年齢は二十代半ばくらいだろうか。目立つ美男というわけではないけれど、良く見ると涼しげな顔立ちをしていて、わりとタイプだなと思った。小柄で背は高くなく、やたらと痩せたガリガリ君で、ちょっと痩せすぎなのが惜しいなと思ったけれど、それでもタイプであることには変わりなかった。
 あまりにもぴたりと視線が合ってしまったので、目をそらすことができなくなってしまった。本当はそらして知らないふりをするべきだったのかもしれない。でもわたしはかなり酔っていたし、酔うと思ったことをそのまま言ってしまう傾向があるので、ついつい、
「ずいぶん痩せてるね」
と自分から声をかけてしまった。他に話すことも無かったからだ。彼は仕方なさそうに笑って、
「うん、病み上がりだから。ちょっと前まで入院してたんだ」
と答えた。言われてみると、なんだか病的な痩せ方に思えた。顔色も良くなかった。
「そうなんだ。もう大丈夫なの?」
 わたしはそう言いながら宇宙人の前を通り過ぎようとした。早くトイレに行きたかったし、いくらタイプだからといって知らない男と話し込むつもりもなかった。
 このロックバーはそんなに大きな店ではないし常連客が多いので、客同士はわりとフレンドリーな感じでしゃべる。かといってだらしない雰囲気はあまりないし、年齢層も割と高く、その分客層もいい。日本人と外国人の比率は大体いつも半々だ。バーという名前だけれど、DJブースと小さめのダンスフロアがあって、実質はクラブだ。スピーカーから出てくる 音が大きいせいで、よほど近づかないと話していることは何も聞こえない。宇宙人が側に寄ってきた。
「ああ、大丈夫だよ。なんなら、試してみる?」
 そう言いながら、宇宙人はわたしが閉めようとしていたトイレのドアを無理に押し開けて入ってきて、いきなりキスしてきた。逃げようとしたけれどダメで、かなりしっかりとキスされてしまい、自分の中のバルブが中途半端に開いてしまったような感じがしてわたしは慌てた。
「ちょっと、何するの、ダメだよ。わたし彼氏と来てるんだから」
「大丈夫、見つかったりしないよ。実はさっきからずっと君のこと見てたんだ。気づいてこっちに来てくれたんじゃないの?」
「違う、トイレに来ただけだってば」
 トイレはフロアからは見えない位置にあるから、和真がわたしを追って来ない限りは見つからないだろうと思った。それにしても、いきなり知らない男とこんなことになってしまったのは初めてだったので、どうしたらいいかわからなくなってしまった。トイレの中はとても狭い空間だし、おまけに戸が閉められてしまって完全な密室になっていた。
 ドアの外では、さっきからビッグ・ビートっぽいダンスミュージックが大音量で流れている。そういう時間帯なのだ。この店は老舗で、曲は古いものから最近のものまで、客のリクエストがあればほぼなんでもかけてくれる。夜の九時くらいから客はそれなりに入っているけれど、踊っている人間はほとんどおらず、にぎやかになり外国人たちが増えてきてダンスフロアに人が溢れ出すのは大体いつも十二時を過ぎてからだ。
「声出してもいいよ。こんだけうるさかったら、どうせ聞こえないからさ」
 宇宙人がそんな風に言う頃には、わたしはすっかり体から力が抜けてされるままになっていた。どうしてこんな風になってしまったのか自分でもわからないくらいだった。普段はしっかり閉まっているバルブがいきなり全開になって、あったはずの理性がどこか遠くへ行ってしまっている。それでもふと気になっていたのは、最初にキスをしたとき、ほんのわずかだけれど口の中にざらりとした粉を入れられたような気がしたことだった。口移しで、何か飲まされた気がする。確かにその前から酔っていたけど、そのあとからますます首の後ろが重くなりぼんやりしてしまっているのは確かだった。でもそれと同時に、興奮して息が上がるような感じが強くなっている。苦しいほどだった。
「ちょっと、ほんとにもうやめて、おしっこ出ちゃう」
 それは本当だった。ジントニックを立て続けに五杯くらい飲んだというのに、まだ一度もトイレに入っていなかったので、膀胱がパンパンだったのだ。だから来たのに、これじゃ用が足せない。頭がぼうっとするのはそのせいもあるかもしれない。とにかくもう、我慢の限界だった。
「じゃあ、見ていてやるよ。もう脱がせてやったから、あとは座ってするだけだろ」
「バカ、いい加減にして、さっさとここから出てってよ」
 わたしが便座に座りながら宇宙人を押しのけようとすると、宇宙人は上からわたしの頭を掴んでジーンズのファスナーを降ろしペニスを取り出した。それはすでに大きくなっていた。
「しゃぶって」
 押し付けられるようにして口に咥えさせられると子宮が縮む感じがして、それと同時に、意外なほど大きな水音を立てて膀胱から大量の尿が溢れ出した。



 どうやら飲み過ぎたらしい、ということに気が付くのは大抵の場合次の日の朝だったりする。まぁでも飲んでいるときに気が付くのだったらそもそも飲み過ぎたりしないだろう。起き上ろうとするとひどく頭が痛んで、ひっきりなしに吐き気がした。もう何も出るものがないというのに、胃がひくひくしている。わたしは体を丸めながら呻った。かなり強烈な二日酔いだった。
 とても会社に行ける体調ではなかったので、ベッドの中で考えて結局休むことにした。もしかしたら和真は少し心配するかもしれないけれど、理由はすぐにわかるだろう。
 わたしは商社で派遣社員をしている。仕事の内容は貿易事務で、和真はそこの社員だ。
 外語大を出て一度はちゃんと正社員として勤めたのだけれど、体調も精神もどちらも調子を崩してしまい、たった二年でその会社を辞めてしまった。その後しばらく療養して、スクールに入り直し半年ほどで受験、イギリスの大学に留学したところまではなんとか人生を立て直すつもりでいたのに、それもさんざんな経緯を辿った。
 持病の椎間板ヘルニアが悪化して、二年の予定が一年くらいで帰ってくることになってしまったのだ。せっかく苦労して入った学校を続けることもできず、貯金もそのときに使い果たしてしまった。わたしには何も残らなかった。おまけに無理をしたせいでまったく歩けなくなってしまい、帰国してすぐに手術を受け、まともに動けるようになるのに一年近くかかった。そんな風に、二十代のほとんどは過ぎ去ってしまった。
 こんなはずじゃなかった、とは思ったけれど、気力は戻らなかった。
 体が回復して普通に動けるようになったので、とりあえず派遣会社に登録し、今の会社で働き始めた。仕事は単調で辛いことも苦しいこともない。英語がある程度わかれば誰にでもできる簡単な事務仕事で残業もない。多くを求められることが無い代わりに収入もそれなり。まぁでも実家で親と住んでいるから、そんなに困ることもない。つまらないけれど平和な毎日だ。
 今年から付き合い始めた和真とはそれなりに楽しくやっている。
 和真は、一言で言えばまともないい人だ。優しいし、大事にしてくれる。でも何か違う気がする。何が違うのかはよくわからない。違うのはわたしなのかもしれない。
「何、また会社休んじゃったの」
 母がわたしの部屋のドアを開けて言った。以前、最終的にはこうやってずるずると会社を辞めてしまった経緯があるので、母の言い方は辛辣だった。
「だって具合が悪いんだもん」
「一体昨日は何時に帰ってきたのよ、まったく」
 母は少しぶつぶつ言ったけれど、それ以上は言わなかった。和真と一緒だったことを知っているからだ。先日、和真がうちに来て家族と夕食を共にしてから、両親の機嫌がやたらと良い。何かと心配の種だった二十九歳の娘がどうやら結婚しそうだとわかって、ほっとしているようなのだ。
 父と母が仕事に出て行き家の中がしんと静まり返ると、わたしはやっと起き上った。父は税理士で青山に事務所を持っている。母も事務所を手伝っているので、二人は一緒に出て行くのだ。ちなみに昔は、母は事務所を手伝うことはしていなかったのだけれど、度重なる父の浮気に耐えかねたのか、仕事場に居座ることにしたらしい。 
お風呂にも入らないで下着姿のままベッドに潜りこんでいたらしく、パジャマも部屋着も身に着けていない。部屋を出てキッチンへ行き、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出しラッパ飲みしていると、ふと二の腕の内側に目が行った。何か文字が書いてある。090から始まる数字。携帯電話の番号だった。なにこれ、と思いながら、心当たりはひとつしかなかった。
 あのあと、トイレの中で結局最後までした。わたしはドロドロに溶けてしまっていて、あんな場所だというのに自分からせがんでしてもらったのだ。途中からは、なんだかもうよく覚えていない。一気に酔いが回ったような感じだった。
 わたしは済んだあと、その場で便器に向かって嘔吐しまくった。胃が裏返るんじゃないかと思うほどの吐き気だった。そんなわたしの背中をさすりながら、宇宙人は「また会おうよ」と言った。わたしは返事ができるような状態ではなかった。それで宇宙人は、ポケットから油性ペンを取り出して、わたしのTシャツの袖を捲り上げ、そこに書き込んだのだ。「どうせ今言っても覚えていないだろうし、メモを渡しても失くすだろうからここに書いておくよ。また会いたい。連絡して」
袖を下ろしてしまえば見えないから、和真に見つかることもなかった。
 どうやって家まで帰り着いたのか。とにかく最後にタクシーを降りたとき、和真が心配そうにわたしを見ていたことだけは覚えている。

 シャワーを浴びようとして、その番号を携帯電話のメモに入れた。得体の知れない男の番号なのに。でも、体を洗えば文字は消えてしまうし、わたしはまだ少し考えたかった。
 勢いよくシャワーのお湯を出して、体の奥まで洗い流した。
 確かコンドームはつけていたから、妊娠と感染症の心配はしなくて良さそうだった。あんな時なのにマナーのいい男で良かった。
 少しすっきりしてバスルームを出ると、水とグレープフルーツジュースを大量に飲んだ。
 お昼頃、和真から電話がかかってきた。和真はしきりに謝っていた。わたしにとってああいう店は初めてだったと思っているらしい。別にそういうことはなく、昨日の店も以前に何度か訪れたことがある。まぁでも常連というほど通っていたわけでもないし、面倒なので黙っていた。
 和真はアメリカの大学を卒業しているのでその頃の友人も多く、飲んだ流れでたまに利用するらしい。昨日も店で外国人の知り合いに会い、そっちの人たちと盛り上がってしゃべっていたので、わたしが途中からしばらく側にいなかったことにどうやら気が付いていなかったみたいだった。
「大丈夫、ちょっと飲みすぎちゃっただけ。朝は二日酔いだったけど、もう収まったから」
「なら良かった。じゃあ、また明日」
 電話を切ると窓の外を眺めた。家はマンションの十五階なのでそれなりに景色はいい。良い天気だった。
 せっかく会社を休んでしまったけれど、七月なのでかなり暑く、炎天下に外に出て行く気にはなれなかった。それにまだ体調が良くない。エアコンの効いた部屋の中が心地よかった。
 夕方になって日が陰ってきたら少し散歩でもしようと思いながら、わたしはもう一度ベッドに入った。

 目を覚ますと夕方だった。よく眠ったせいか体調が戻っていた。
 ベッドの中でごろごろしていると、どうしても昨夜のことを思い出してしまった。ああいうことは初めてだったけれど、不思議と悪い印象は無かった。
 年齢を重ねるごとにガードが下がっているのだろうか。それにしても知らない男とトイレでセックスするなんて、我ながらとうとうここまで来たかという感じがした。
 それほど経験があるわけではないけれど、わたしは基本的に異性にだらしない。きっとそのへんは父に似たのだろう。初体験は十四歳のときで相手は通っていた塾の講師だった。
たまたま起こった事故のような初体験で、友達はまだの子がほとんどだったので、ちょっと自慢できた。済んでしまえば、感想はただそれだけだった。
 セックスというものは情緒的に捉えることもできるが、非情緒的に処理することもできるということを、そのときになんとなく知ったような気がする。女にとって初体験が大事だというのは、もしかしてこういう感覚を持ってしまうと後々性にだらしない人間になってしまうからかもしれない。
 恋人はその時々でいたりいなかったりした。あっさりした性格の、別れるときに揉めない男を選ぶ嗅覚だけはあったと思う。
 事故のようなセックスは、恋人の有無とは関係なく何度かあった。セックスというのは大体、事故のほうが気持ちいいので、困ってしまう。
 和真の前の、一番最近の恋人は、イギリス留学中に同じ寮にいたアルジェリア人男性だった。外国人同士の気安さでなんとなく仲よくなり、ふとした拍子で抱き合ってしまい、そのまま付き合い始めた。
 その彼とは椎間板ヘルニアが悪化して帰国するまで続いていた。外国人男性と付き合ったのはそのときが初めてだったけれど、とても優しく親切にしてくれたので感謝している。
 歩けなくなったわたしを何度も病院まで連れていってくれたのは彼だった。イギリスの病院は、イギリス人はもちろん外国籍の人も留学生もみんな無料なのだけれど、その代りいつ行ってもひどく混んでいてものすごく待つ。結局それが椎間板ヘルニアを悪化させた原因のひとつにもなったと思う。彼はわたしがイギリスで勉強を続けられるように協力すると言ってくれたけれど、親切な彼に負担をかけ続けるのは心苦しかった。帰国してからもしばらくはメールのやりとりをしていたけれど、今はもう連絡は取っていない。
 昨夜のことを思い出すと、体の奥が疼くような感じがした。でも頭の中ではまるで他人事みたいに感じている部分もあった。
 そのせいか、和真に悪いと思うこともなかった。むしろ、わたしの体もわたしの感覚もわたしだけのものなのだなあと、よく考えたら当たり前のことが腑に落ちた。
 携帯のメモに入れておいた電話番号に、わたしはかけてみることにした。電話はすぐに繋がった。
「もしもし」
 こちらを探るような話し方だった。良く考えたらお互いに名前を知らない。わたしも「もしもし」と言ってみた。するとすぐ、電話の向こうの声が大きくなった。
「あ、なんだ昨日の子か」
「そう。腕に番号が書いてあったからかけてみたんだけど」
「うれしいよ。今どこにいる?」
「家」
「家ってどこ」
「用賀だけど」
「なんだ、用賀だったんだ。ふうん、そのへんだったらよく知ってるよ。じゃ迎えに行くから、馬事公苑のあたりまで来てくれる?」
 馬事公苑のそばのファミレスで待ち合わせをすることになった。
 わたしはメイクをすると髪を丁寧にブロウし、柔らかい綿素材の白いカシュクールワンピースにこげ茶色のミュールを履いて外に出た。ワンピースはノースリーブで、裾のほうにアンティークレースの飾りがついているお気に入りだった。出かけに姿見で全身を見て、ちょっと迷ってピンクベージュの五分袖ボレロを羽織り、外へ出た。
 ファミレスに着いてしばらくすると、宇宙人がやってきた。青いTシャツに古着っぽいジーンズ姿だった。昼の光の中で見ると、昨日よりもさらに若く見えた。というより、学生にしか見えなかった。わたしはかなり不思議な気持ちになりながら彼をしげしげと眺めてしまった。やはり昨夜はかなり酔っていたらしい。年下だとは思っていたけれど、せいぜい二歳くらいの差だと思っていたのだ。
「昨日と印象が違うね。でも今日の服のほうがいいな。似合ってる、かわいいよ」
 会ってすぐに臆面もなくさらりと女を褒めるあたりは、なんとなく物慣れているのか、詐欺師なのか、それとも外国暮らしの経験でもあるのかという気がした。
「ありがとう。あなたは、学生?」
「一応ね。この近くの大学だけど、一年くらい行ってないんだ。やめなきゃいけなくなるかもな」
「この近くって言ったら農大でしょ。なんでずっと休んでるの?」
「最近はまぁ、入院していたからだけど…、めんどうになっちゃったっていうのが本当のところかな。ハーブ作って販売していたのがばれて、いろいろヤバくて。前に大麻栽培をやってた先輩が捕まっちゃったこともあったしさ、俺は捕まるのとか嫌だったから合法のやつでやっていたんだけど、それはそれでちょっといろいろあってさ。あ、ハーブって言っても、バジルとかローズマリーとかのことじゃないからね」
「ん? よくわからないけど」
「ああやっぱり知らないんだ。見たとこそんな感じだもんな。なんて説明すればいいのかなあ。合成カンナビノイドっていうのがあるんだけど…、それをベースにいろいろ組み合わせて作る脱法ドラッグのことだよ。実際はいろんなのがあるから一口には説明できないけれど、効きは大麻と似ているのが多いかな。今のところ違法じゃないから、けっこう売れてる」
「ふうん、大麻と似てるんだ」
「ふうんって、やったことあるの?」
「留学中にちょっとだけ」
 寮の中で本当に少しだけ吸ったことがある程度だった。そんなにいいものとも思わなかったし、つきあっていた彼にも習慣がなかった。
「なんだ、知ってるんだ。留学ってどこに行ってたの?」
「イギリス。でも、体壊して帰ってきちゃった」
「じゃあ英語わかるね。俺は小さいころから母親の海外転勤にくっついてあちこちに住んでて、それで覚えたって感じなんだけど」
「お母さんの転勤?」
「あ、うち母子家庭だからさ。母親は外資系の投資銀行で働いてる。今はシンガポールに住んでる」
「ふうん。両親、離婚したの?」
「いや。父親は最初からいない。って言うか、精子バンクから優秀なのを買ったらしいよ。あれって目の色も人種も学歴も全部選べるから、俺の出来が思ったより悪いのが母親としては納得できないらしいけどね」
「ふうん」
「それ、口癖? ふうんって」
「いや。すごい話だなと思って。そういうのってどんな感じなのかなぁとか考えちゃった」
「別に何も感じないけどね。たぶん一人っ子みたいなもんじゃない? 兄弟が最初からいなかったらさ、別に寂しいとか兄弟欲しいとかそんなに思わないよね。それと一緒だよ」
「ふうん」
「やっぱり口癖でしょ、それ」
 わたしたちはなんとなく笑った。
「ところでハーブっていうのは大麻の代替品ってこと?」
「まぁね。でもいろいろあるんだ。普通はいい感じになるだけなんだけど、ものによっては幻覚を見たりする。そのへんで売ってるようなのは、実際はハーブって言っても、ハーブでもなんでもない、ケミカルなもんだから」
「じゃあそれって危ないんじゃないの」
「いい感じになるだけのやつは別に危なくないけどね。幻覚を見るようなのは誰かがついてないとちょっと危ないかな。ハーブやるようなやつって大抵いろんなのをチャンポンするからさ、余計に怖いんだ。混ぜられちゃうとどんな飛び方するかわかんないし。だからもう、そういうわけわかんないことしそうな奴には、最近はあまり売らないことにしたんだけどさ」
 宇宙人が煙草に火をつけた。良く考えたらしばらく吸っていないなあと思って、わたしも一本もらった。
「とにかく、ものすごく体に悪そうだね、それ」
 わたしはゆっくりと煙を吐き出した。
「まあね。俺もあれこれ実験しているうちに体を壊しちゃって、入院までしちゃったもんな。体に悪いことは確かだよ。そろそろ包括規制されそうだし、金もそれなりに貯まったし、足を洗おうと思ってるところなんだけどさ」
 食事が済むと、宇宙人が通っている店があるというので、ファミレスを出てバスで三軒茶屋まで行った。そこは地下にある小さなクラブだった。一応フロアがあって踊れるようにはなっているけれど、二十人くらいしか入れなさそうだった。
 宇宙人は年配の黒人男性としばらくしゃべっていた。ここの店長のようだった。まだ早い時間で客はわたしたちしかいなかった。ハイネケンをもらって二杯くらい飲むと少しいい気分になってきた。わたしも黒人店長と英語で他愛のない話をした。
 店長はテランスという名前で、デンバーから来た、と自己紹介した。ボクサーか作家になりたかったけれど、どちらもダメだったので日本に来た、マイク・タイソンとサリンジャーが好きだ、というので、どちらもすごく有名人だね、と返すと、そうだな俺は有名になりたかっただけかもしれないと笑っていた。この人は初めての客にはいつも同じ話をするのかもしれないとなんとなく思った。
 そのうちに宇宙人がDJブースに入ってレコードをかけた。古そうだけど、なかなか素敵な音楽が流れてきた。とてもシンプルで柔らかいけれど軽くない、大人の音楽だと思った。男性ボーカルもクールだった。マーヴィン・ゲイに似ているけれど、あれほど情緒的じゃない。こっちのほうが好みだなと思った。グラスを磨いているテランスに音楽のことを尋ねると、これは『ウィリアム・デヴォーン』だ、なかなかいいだろう、という答えが返ってきた。
「俺があいつに教えてやったんだ。あいつは若くて何も知らないからな。最初にこの店に来たときは、DJになりたいって言っていた。だから古い曲もたくさん聞かせて勉強させたんだ」
 ふうん、と頷きながらわたしはDJブースにいる宇宙人を見つめた。なんだか急に切ないような、感傷的な気持ちになったのは、たぶん音楽のせいかもしれなかった。
「この曲のタイトルは、『あなたが手に入れたものに感謝しましょう』っていうんだ。よく聞いてみなよ、いいこと歌ってるぜ」
「へえ」
 ジン・バックをわたしの目の前に置きながらテランスが言った。歌詞を聞き取ろうと、わたしは耳を澄ませた。

『君たちはキャデラックを所有できないかもしれないけれど
上手くやっていけることを忘れないで
自分たちがすでに手に入れたものに感謝しなさい』

「テランスは、女を連れてきたらこれを回せっていうんだ、いっつも」
 いつのまにか宇宙人が隣に戻ってきていた。
「すでに手に入れたものに感謝しなさい、って意味で?」
「そう。他にもいい男はたくさんいるだろうけど、今夜は俺でいいじゃんって意味」
わたしは思わず笑ってしまった。
「でもさ、ほんとうれしいよ、連絡くれて。俺、入院してしばらくずっと女っ気のない生活していたからさ、昨日は絶対に誰か捕まえてやろうと思ってたんだ。そんなところに、すごいタイプの子が出て来ちゃったからこれはもう行くしかないと思ってさ」
「あはは。ほんとは誰でも良かったくせに口が上手いよね。どうせしょっちゅう、いろんな女の子をここに連れて来てるんでしょ?」
「妬ける?」
「別に」
「でもさ、本当にうれしいんだよ。だってさ、こういうことって簡単でいいし、むしろ簡単なほうがいいでしょ。そう思わない?」
 そうかもしれない。わたしは笑いながらジン・バックを喉に流し込んだ。そのときふと、宇宙人の顔が近づいてきて、キスをしてしまった。昨日も思ったけれど、宇宙人はキスが上手い。テランスは少し離れた場所で知らん顔をしていた。

 結局二時間くらい、テランスの店で過ごしただろうか。客がちらほらと入りだした頃、宇宙人がテランスに何かを渡し、テランスは宇宙人に封筒を寄越した。宇宙人は受け取ると立ち上がり、わたしを促した。
「そろそろ行こう」
 店を出ると、宇宙人が封筒を無理やり折りたたんでポケットに仕舞い込んだ。ちらりと見えた封筒の中身はお金だった。それもたぶん、かなりの金額だった。
「すごいね。どうしたの、それ」
「あそこにはまとめて卸してるんだ。俺、最近は外国人しか相手にしないことにしてるからさ。ショップもネット販売もシャットアウトしてる。もう、知り合いにしか売らない。ヤクザに見つかると面倒なんだ。商品がバッティングするから気に入らないってこともあるし、勝手に自分たちのシマで商売しやがって、ってこともあるし。そんなこんなで、しばらく雲隠れするのに金がいるんだよなあ」
「えっ、それって大変なことじゃない? お金かあ、ちょっとならあげられるけど、わたしも貯金とかあまりしてなくて」
わたしがそう言うと宇宙人は笑った。
「ありがとう。君、いい人だね。でも大丈夫、当てはあるんだ、あまり心配しないで。せっかく溜めた金に手をつけたくないだけだからさ」
 しばらく歩いて、もう一軒の店に入った。そこは住宅街の中の一軒家で、静かな雰囲気のワインバーだった。
「ここ、食べるものが美味いんだ。何か頼んでみる?」
店長は日本人で、奥にいる白人シェフと二人でやっている店のようだった。見ていると二人はとても仲が良く、どうやらゲイカップルらしいとわかった。
 お腹はそんなに空いていなかったけれど、せっかくなのでキャベツのバーニャカウダを頼んでみた。あとはスパークリングワインのいいのが入っているというので、それをもらうことにした。
 白人のシェフが英語で話しかけてくる。もともと宇宙人と知り合いなのはどうやらこっちの男のようだった。話してみると、彼はオーストラリア人だった。名前はコナーで、オーストラリア人だけど、イタリア料理のシェフであるらしい。料理もスパークリングワインもとてもおいしかった。
 食べやすい大きさに切ってある、軽くグリルしたキャベツがとても甘くて、バーニャカウダソースにつけて食べると、なんだかやたらと幸せな気分になってしまった。宇宙人はもともと小食らしく、食べるものにはほとんど手をつけていなかったけれど、わたしが食べ尽くしそうになっていたキャベツを最後にひとくちだけ食べた。
「こいつとはバリ島で知り合ったんだ。一か月くらいずっと一緒にいたよ」
コ ナーが宇宙人を差し、にこにこしながら言う。
「こいつは小さいけれど魔法使いみたいな男だ。俺をとんでもないところへ連れて行ってくれた。どこだと思う? 宇宙だ。こいつのオリジナルレシピは本当にすごい。大麻なんかよりずっといい」
「オリジナルレシピ?」
「こいつが作るのは普通のハーブだけじゃないんだ。次々、新しいものを作る。とにかく、研究熱心なやつなんだ。はっきり言って、天才だと思うぜ俺は」
「でも体を壊しちゃったんだよ、コナー。俺はもう、足を洗うことにする。入院したのは知ってるだろ。俺のハーブはこれで最後だから、無駄遣いするなよ、あと、やりすぎるなよ。恋人がいるからもう大丈夫だろ?」
 宇宙人がコナーに紙袋を手渡した。コナーは中をのぞくとうなずいて、奥に戻って封筒を持ってきた。けっこう厚みがあった。
「ありがとう、助かるよ」
「金は前の分も入ってる。あとの残りは餞別だ。しばらくどこかへ行ってくるんだろ?」
「まあね、たぶん」
 宇宙人は封筒を持って立ち上がった。少し怒ったような表情だったので、不思議だった。
「じゃ、行こう」
 外に出ると、住宅街の中を歩いた。夜だしあまり目印もないので、わたしはどこをどう通っているのかよくわからなかった。
「ねえ、どこかに行くの?」
「どこかって?」
「どこか遠くってこと。雲隠れするんでしょ」
「ああ、そのことか。さっきも言ったけど、俺は今学校も行ってないし、母親のところに行くのも気が進まないしさ。だからしばらくコペンハーゲンにでも行って来ようと思って」
「コペンハーゲン?」
「そう。コペンハーゲンでテントと寝袋を買って、しばらくのんびりしてくるよ。あっちには友達もいるし。君も遊びに来ない?」
「でも、仕事があるから」
「まぁ普通はそうだよな」
 宇宙人は笑った。なんだかちょっと寂しくなった気がした。
「じゃ、わたしそろそろ帰るね、電車無くなっちゃうし。楽しかった、ありがとう」
 今日はもういいかな、と思った。
 宇宙人がわたしを見た。目の中を覗きこまれた感じがした。
「たぶん今、帰らない方がいいと思う。もうしばらく俺といた方がいい」
「どうして?」
「さっき食べたキャベツ、ちょっと甘かったろ。ピーナッツの香りがして。俺も最後にちょっと食べて気が付いたんだけど」
「うん、少し甘かったかな。おいしかったよ」
 宇宙人は舌打ちした。
「だよなあ。まったくあいつ、頼みもしねえのに余計なことしやがって。サービスのつもりかよ」
「なんのこと?」
「『スペースウォーク』をキャベツにかけられた。君、ずいぶんあれを食べてた」
「何その、『スペースウォーク』って」
「前に、俺がブレンドした幻覚剤でさ…。ハーブの状態にして売ったこともあるけど、もとは粉薬だから食べるものにかけてもいいんだ。ショップに卸したこともあったんだけど、危険なんで引っ込めたんだ。もう作ってない。材料もなかなか手に入らないしね。多幸感があるだけのようなやつとは全然ものが違うんだ。俺の手元にも残っていないのに、コナーのところにはまだあったんだな…。たぶん、量は大したことないはずだから、とりあえず様子を見させて。どう、大丈夫? なんともない?」
 宇宙人の少し慌てた様子に、急に不安になった。
「まだよくわからないけど、そんなの困るよ。でも昨日だってわたしに何か飲ませたでしょ、実は今日も仕組んだんじゃないの? 嘘つき」
「昨日のはただのラブドラッグだよ。あんなの別になんてことないよ。ずいぶん酒が入ってるなあと思ったから、ついでにダメ押しでドーパミンを増やしてあげただけだよ。気持ち良かっただろ?」
「何なのよそれ」
 そこまで言いかけて、急に頭の中がぐるんと回った。脳みそがすべったような感じだ。急に周囲が歪んで見えるようになった。それと同時に、道路脇の看板や信号機が妙にキラキラし始めた。見上げると空は満天の星だった。東京でこんな空は見たことがなかった。 
「わあ、きれい」
 思わず言ってしまった。
「やっぱり入っちゃったな。どう、きれいなの? どんな風に?」
 側で声が聞こえる。でも姿は見えない。自分がどこにいるのかわからなくなった。上下もよくわからない。それなのに不思議と恐怖は感じなかった。
「うん、すごくきれい。キラキラしてる。まるでクリスマスみたい」
「それは良かった。それじゃあ、僕のUFOにでも行こうか」
 周囲の音にエコーがかかって聞こえ始めた。UFO、UFO、UFO、こだましている。わたしは思わず聞き返してしまった。
「UFO? どうして?」
「『スペースウォーク』が効いていれば宇宙に行けるんだ。コナーがそう言ってただろ? せっかくだから、これから君を宇宙に連れていってあげるよ」
「ねえ、あなたは宇宙人なの?」
 わたしがそう言うと、エコーがかかった笑い声があちこちから飛んできた。
「そうだよ。宇宙人なんだ。だからUFOに住んでるんだ」
 いろんな方向から声がするので必死に見回すと、全身が光り輝いている宇宙人が側にいた。何度まばたきしても、変わらなかった。
 そんなことをしているうちに、急に暖かい気持ちが流れ込んできた。まるで滝行を受けているくらいに強い幸福感だった。こんな気持ちは生まれて初めてで、どうしたらいいかわからなくなっていると、次第に頭蓋骨の中が痒くなってきた。わたしは頭を掻き毟った。
「痒い、痒い」
「大丈夫だよ、落ち着いて。大丈夫だ。ゆっくり目を開けるんだ」
 自分が目をつぶっている、という感覚はなかったのだけれど、やってみたら目を開けることができた。変な感じだった。現実が何層にも重なっているような気がした。今わたしは本当に目をあけているのだろうか? 
 いつの間にかわたしはベンチに座っていた。目の前には広い芝生、そして向こう側には深い森があった。ここはどこだろう? さっきはこんなところにいなかったはずだけれど。なんだか見覚えのある景色だった。子供のころから良く知っている場所のような。
「砧公園だ」 
 わたしはつぶやいた。
 砧公園というのは世田谷区にある大きな公園で、元ゴルフ場だったというだけあってかなり広い。幼いころからしょっちゅう来ているので良く知っている場所だ。わたしは少し安心した。でもさっきまで三軒茶屋にいたはずなのに、どうしてこんなに早く砧公園に来ることができたのだろう?
「行こう」
 宇宙人に促されてわたしは立ち上がり、歩き出した。周囲には誰もいない。二人だけだ。宇宙人は芝生を通り抜け、橋を渡り、森の奥へとわたしを案内した。橋の上で、急に大きな水音に包まれて驚いた。川の流れる音がやたらときれいだった。森の奥には小さい祠があった。わたしはしゃがんで手を合わせ祈った。
「何してるの」
「こんなところにいきなり神様がいるんだもの」
「そうか、神様か、ふうん」
 宇宙人は先に進みたい様子だったけれど、わたしは構わずしゃがみこんでいた。すると不意に祠の扉が開き、黄金色の金魚が出てきた。金魚は空中を泳ぐようにふわりと出てきたかと思うと瞬く間に巨大化し、こちらが目をあけていられないほどの強い光を放ち始めた。周囲の木々がうれしそうに揺れ始め、地鳴りがした。金魚がわたしを正面から見た。
「こんばんは」
 金魚が口をぱくぱくさせてしゃべった。
「こんばんは」
 わたしは見上げながら答えた。
「どうでしょう。もう、わかりましたか?」
 金魚にそう言われた瞬間、「あ、わかった」と思った。でもわたしが「わかった」と思ったことは世界は小さな粒からできているということだけだった。でも体中がそれを喜んでいた。
「わかりましたぁ」
 わたしは大きな声で言った。金魚はひれをばたばたさせながら笑っていた。魚が笑うところを見たのは初めてだった。
「もう、行こうよ」
 宇宙人の呆れたような声が聞こえた。腕を取られて、わたしは再び歩き出した。
 間もなく、林の中に古いアパートがポツンと一棟だけ建っているのが見えた。
「着いたよ」
「ねえ、どこにUFOがあるのよ。UFOはどこよ」
「あれ? UFOに見えない? そっか、じゃあここはどこ?」
「砧公園でしょ」
「そっか、なるほど。まあいいや、入るよ」
「どこに?」
「俺の隠れ家その一、かな」
「嘘つき、あなたは宇宙人じゃなかったの?」
「嘘じゃない、宇宙人だよ。とにかく、中に入ろう。これから宇宙へ連れて行ってあげるんだからさ」
 仕方なくボロアパートの階段を上がった。部屋は一番奥で、あちこち外壁がはがれており、扉の表面もがさがさになって毛羽立っていた。一体何年前のアパートなのだろうか。取り壊し寸前のような雰囲気だった。
「嫌よ、こんなところ」
「贅沢言うなよ。しょうがないだろ、隠れ家なんだから。まぁでも、こことも今夜でおさらばしようと思ってるんだけどさ」
 背中を押されるようにして中に入ると、強い匂いに包まれた。
「ねえ、なんか臭いよ。頭、痛くなる」
「ここは作業場にしてたからな。匂いがブレンドされちゃって余計ひどくなってるんだ。こういうときにはいい方法があるんだ、とりあえずそこに座って」
 穴の開いた合皮の安っぽいラブソファに腰かけると、すぐにだるくなりわたしは寝転んだ。宇宙人は棚に置いてあった皿を手元に引き寄せ、お香のようなものを置くと火をつけた。
「これで少しましになるだろう」
「そんなことない、やっぱり苦しいよ、匂いが強すぎる」
「大丈夫、だんだん良くなってくるから。ゆっくり、呼吸して」
何度か深呼吸すると、関節がゆるく外れたような感じになり、わたしはソファに沈み込んだ。悪い気分じゃなかった。
「音楽でもかけようか」
 薄く流れ始めたのはピアノの音だった。優しさと諦めが同居しているような。
「バッドに入らないためだよ。音楽を聴くというより、他の音を遮断するためだ。どうせ間もなく聞こえなくなるから」
 ラヴェル、プーランク、サティ、フォーレ。どこかで聞いたことがあるような気がして、頭の中にフランスの作曲家が何人か浮かんだけれど、結局誰なのかよくわからなかった。そんなことを考えているうちに頭の中がゆらゆらと揺れ出して、後頭部から何かがぽかんと抜けおちた感じがした。
 宇宙人がラブソファに移動してきて、わたしの上に乗ってゆっくりとキスを始めると、次第に音楽が遠くなっていった。それと同時に、周囲がどんどん暗くなっていき、何も見えなくなってしまった。
 そして体の感覚が増幅されてきた。皮膚に少し触れられただけでもあちこちに快感が走る。キスをしているだけなのに、子宮のあたりがズキズキと破裂しそうなくらい興奮した。 
 目を開けていても、何も見えない。不安なはずなのだけれど、そのうちにすうっと、不安と共に自分そのものが消えていくのがわかった。自分が消滅していくことが、こんなに気持ちいいことだなんて知らなかった。
 ふと気が付くとわたしは大きな穴の淵に立っていた。穴は巨木のそばにあった。そこは森の中でとても静かだった。直径五メートルほど、深さはもっとあるだろう。暗いので穴の底は見えない。わたしはここに入りたい、いつかきっと入るだろう、と思った。でもなぜかわたしの体には巨木から伸びてきている蔓がしっかりと巻き付いていて、そこから先には行かれない。
「入りたい。ねえ、埋めて」
「ん? 埋める?」
 宇宙人の声がした。側には誰もいないのに。
「そう。早く埋めて」
「そっか、埋めて欲しいのか。まぁでも、もうちょっと待ってよ。すごく深く埋めてあげるからさ」
 わたしは早く穴に入りたくて仕方なかった。
「ねえ、早く。お願い」
「せっかちだな、もう我慢できないの?」
「うん」
 わたしは頷いた。
「お願い。早く埋めてください」
 だって目の前に穴があるのだ。わたしは体に絡みついた蔓を外そうともがきながら、深い穴の奥だけを見つめていた。巨木から派生してきた蔓はとても強くて、わたしの力では外すことができない。そんなことをしているうちに、木の枝が伸びてきた。その枝には、白みがかった青の、丸みを帯びた小さな葉がたくさんついていた。なんとなくユーカリの葉に似ていた。それらの葉がわたしの体中を撫で、敏感な場所にぴたりと吸いついてくる。唇に、首筋に、乳房に。そしてさらに別の枝が伸びてくると、わたしのヴァギナのあたりを探るように撫で、奥にまで入り込んでくるのだった。その上、乳首に細い枝が絡みつき、きゅうっと締め付けられると、敏感になっている体がびくびく震えて、口の端から涎が垂れてきた。
「じゃあ、入れるよ」
 宇宙人の声がして、太い木の枝がずぶずぶとわたしの中に入り込んできた。とても大きくて太い枝で、喉元まで串刺しにされてしまった。すると体に巻き付いていた蔓がぱらりと離れ、わたしはあっという間に穴の中に落っこちてしまった。
「どう、気持ちいい?」
 返事なんかできない。わたしは喘ぎながら穴の中に落ちていっている最中だった。どこまで落ちるのか、いくら目を開けても何も見えない。闇が広がっていた。
 そのときふと、ブラックホール? と思った。すると突然、体に遠心力がかかった感じになってふっ飛ばされた。そしてそのまま、ものすごいスピードでわたしは飛び始めた。
「ワープ?」
 思わずそうつぶやくと、
「そっか今ワープしてるんだ」
と、どこからか宇宙人の声が聞こえた。
「ううん違う、スターツアーズ」
 そう答えながら、わたしって発想が貧困なのかな、と頭のどこかで考えた。周りの風景は、ディズニーランドのアトラクション『スターツアーズ』でワープしているときにそっくりだった。
「スターツアーズか。なるほど、じゃあ今ちゃんと宇宙にいるんだね、それは良かった」
 宇宙人が笑った。
 ワープが終わった。すると目の前には、宇宙が広がっていた。それはやはり『スターツアーズ』の光景にそっくりだった。
 わたしのイメージできる宇宙はこれ止まりってことなのかな。目の前の風景に興奮しながらも、幻覚で埋め尽くされた脳みその、ほんの少し残った一部分でわたしはそう思った。
 そういえば先月、和真とディズニーランドに行ったばかりだ。だからこんなものを見るのだろうか。
 ああでもそんなことよりも。帰り道電車の中で、「ところで結婚したらどこに住む?」と言われたときに感じたちょっとした違和感は、あれはなんだったのだろう。現実感がまるでなかった。
 わたしは目を開けた。でも何度目を開けても、本当に開けることはできなかった。ここは宇宙だ。わたしは宇宙遊泳中であるらしい。
「今はどこにいるの?」
 宇宙人の声がした。気が付くと、両足を宇宙人の肩にかけて、体をくの字に折り曲げられたような形で深く貫かれていた。気持ちいい。そう思った途端、足を踏み外したような感覚に襲われて、落ちるのかと思ったら、今度は急上昇を始めた。
「きゃっ、ぶつかる」
 アパートの低い天井に激突したと思った瞬間、通り抜けていた。そのままどんどん上に行く。電信柱、高い木、すべてが自分よりも下になっていく。ビル、高層マンション、すべてを追い抜いてひたすらまっすぐ真上へ。恐ろしさのあまり声も出ない。東京タワーもスカイツリーも追い越した。ん? おかしいな、ここ砧公園じゃなかったっけ。そんなことはどうでもいい、一体どうなるの、と思ったら水の中へ入ってしまった。水、と言ってもまるで片栗粉を溶かしたような、ちょっととろみのある水。ぐちゅ。ぐちゅ。ぐちゅ。耳元で、土砂降りのときに泥の中を歩くような音がする。足がとても重い。踏み抜いて歩くほど、どんどん泥の中に沈んでいく。ダメだ苦しいよ、もうすぐ頭まで沈んでしまう、と思っているうちにとうとう沈んでしまった。
 そうして気が付いた。水音がするのは外側じゃない、内側だ。体の中で水音がする、わたしの皮袋は水でいっぱいだ。もう今にも溢れそうだ。
「もうダメ」
「何がダメなの」
「出ちゃう、たぶんおしっこ」
「それ、おしっこじゃないんじゃないかなあ。ま、どっちにしてもここで出しちゃっていいよ」
「でも、汚しちゃう」
「いいよ、汚れたって」
 体の外も水、内側も水、それを皮一枚で隔てているだけだと思った。どこかに穴をあけることさえできれば、わたしは水に還ることができるのではないか。
「もっと。もっとして。お願い」
「じゃあ、上になってくれる?」
 そう言われて上になり跨ると、宇宙人は枝のついた丸太になった。わたしは無言のまま丸太から飛び出た太い枝に向かって腰をゆっくりと落とし、上下に動かし始めた。
「すごくいいよ。俺、もう持たないかも」
 丸太がしゃべっているけれど、もうそんなに気にならなかった。笑う金魚もいるし、しゃべる丸太もあるのだ。気が付くと涙が出ていて、どうやら体が破け始めたと感じたところで限界がきた。激しく痙攣し、体の奥に穴が開き水が流れ出ていく。内臓も脳みそもすべて皮袋から出て行った。宇宙人がわたしの内臓の中に埋まりながら、荒い息を吐いていた。わたしは体を震わせながら、その様子をぼんやりと見ていた。


 意識が戻った時に最初に目に入ってきたのは真上に伸びていた木の枝だった。ちょうど夜が明けていく瞬間で、若葉の伸びてゆく先端に日が射し、緑地の木々の間を、光は抜け道を探すように広がっていった。
 わたしが横になっていたのはベンチだった。ゆっくりと体を起こすと、足元に置いてあったバッグを拾った。
 見覚えのある風景だった。目線の先にある建物は世田谷美術館だ。砧公園の中にいるということがそれでわかった。わたしの家はここから歩いて十五分だ。
 まだぼんやりしていた。昨夜のことが、どこまでが本当で、どこからが本当じゃないのか、よくわからなかった。
 立ち上がると、ベンチのすぐ近くを通っているサイクリングロードに出た。少し足がふらつく。夜が明けた瞬間だからまだ人の姿はほとんど見えないけれど、もう少し経てばジョギングの人たちがたくさん出てくるだろう。
サイクリングロードの先の方に、人影が見えた。わたしが帰る方向とは逆のほうへゆっくりと歩き去っていく。なんだか気になって、近眼の目を細めてよく見てみた。青いTシャツにジーンズの宇宙人だった。わたしが見ていたら気が付いて、振り向いて一回だけ手を振ってくれた。わたしも小さく手を振った。

 宇宙人の話はそれっきりだ。名前を聞かなかったので宇宙人とし
か説明のしようがない。
 しばらくして電話をしてみたら「現在使われておりません」の音声が流れた。当たり前だけれど砧公園の中にアパートは建っていないし、三軒茶屋で行った店はどこにあるのかわからなかった。
 結局、あのあとすぐに会社をやめて、和真とも別れた。言いだしたときにはもう完全に決めた後だったから、それほど揉めなかった。いろんな意味でわたしは和真にふさわしくない。もっと早くこうするべきだったと思った。和真はやはり十分に大人で、とてもいい人だった。
 その後、留学していたときの知り合いが日本に帰ってきて、その人の伝手で私立の女子高校で英語の教員をすることになった。中程度の学力の、どこかのんびりした高校で、わたしには向いていた。こんな世界もあったのかと思った。刺激はないけれど、そんなものはもういらなかった。
しばらくして、アルジェリア人の彼に女子校の教員になったことをメールで知らせたら、とても喜んでくれた。なんとなく心配されているような気がしていたので、安心してもらえて良かった、と思った。
 たまに、宇宙人は今頃何をしているのかと思うことがある。わたしが聞いた話はすべて嘘で、案外本当に宇宙人だったのかもしれないとさえ思う。宇宙人は宇宙に帰ったのだろうか。宇宙というのは空の上にあるのだろうか。
 フラッシュバックは特にないけれど、 あれから少し変わったことと言えば、たまに空気の中の塵がすべて消えてなくなったかのように、世界がやたらときれいに見える時がある。そんなときは大抵、耳が聞こえなくなる。だから、ただ見つめている。  それと、金魚を見かけるとつい話しかけたくなったりする。もちろん、そんなことはしないけれど。

                                                           おわり


ブログ版あとがき

お気に入りの作品です。なんとか最後まで書けて良かった、と思います。
もともとは「せんだい文学塾」の講座のために書いた作品です。内容がハードになりそうだったので、このまま出して良いものか不安でしたが、結局最終的に、山形の「小説家ライター講座」で拾っていただき、作家の花村萬月先生に読んでいただくことができました。ほんとそれだけで満足、目的を果たした、と思いました。花村先生のファンだったので。
読んでもらえて、良かったねえ、と作品をナデナデしてあげました。
直そうかなと思って引っ込めていたんですが日々に流され全然手がつけられないので、ブログに出しておきます。
誰かに読んでもらえたら。で、もしも気に入ってもらえたら。それだけで十分です。

ところでこの作品は今思うと地名が多いなと思いますが、
新宿、三軒茶屋、砧公園、馬事公苑、用賀、
小さい子を抱えながら育児していた思い出の場所ばかり。
調子良くかけたのはきっとそのせいだな^^
今は仙台に住んでますけど、子供たちが小さかった頃は東京にいたので、
砧公園は近かったのでベビーカー押して良く散歩に行ってましたし、馬事公苑では幼稚園の行事があったりなど。
この小説にあるような不健康な感じじゃなくって、すごく平和な感じで住んでいました☆(当たり前か^^)
懐かしいなー

感想などもらえたら喜びます。
使用したいなどありましたらご一報ください。
無断使用はしないでね。
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(短編小説)マリアライフ

「マリアライフ」
                              乃村寧音(チアーヌ)

(梗概)

 マリアライフ 梗概


 二年前に妻を自殺で亡くした男が主人公。男はそれ以来、女に欲望を感じなくなってしまった。
 ある冬の夜、男はホテルのバーで好きなタイプの美しい女に出会う。
 久しぶりに欲望を感じ、口説き始めたところその女は「自分には性幻想を見せる特殊な力がある」などと妙なことを言い出した。
 普段は、死姦やハードSMやロリコンなどの、変態の性幻想をリアルに再現してやり、それでお金をもらって生活しているらしい。
男は半信半疑ながらしたたかに酔っぱらい、女とホテルの部屋に行く。
 そこで男は信じられない光景を見ることになる。
 そこまでは良かったのだが ….。
 幻想の世界が、現実にはみ出してきて、男は戸惑う。


 




 俺が新宿のホテルに入ったのは夜の十時過ぎだった。中に行きつけのバーがあるのだ。年配のしっかりしたバーテンダーが一人いて、それでほとんど事足りているくらいの大きさの、小さくて静かな店だ。
 廊下に敷き詰めてある毛足の長いアイボリー色の絨毯を踏みながら歩き、バーの前に到着すると、重厚な木製のドアをゆっくりと開けた。シルバーを基調とした色合いの、品の良いクリスマスツリーが飾られていた。
(もうそんな季節か …)
 週の半ばだったこともあり店は空いていた。バーテンダーがのんびりとグラスを磨いていた。
 カウンターの中程に腰掛け、ウィスキーのダブルをロックでもらった。
俺は今年で三十八歳になる。二年前に妻を亡くし、現在独り身だ。四歳の娘が一人いて、同じ敷地内の別棟に住む母親が通いのベビーシッターと二人で面倒をみてくれている。
 電気メーカーの研究所に勤める普通の会社員だが、世田谷に親の代から譲り受けた賃貸マンションを三棟ほど所有しており生活には余裕がある。母親に言わせれば昔はもっと羽振りが良かったらしいのだが、これでも相続のとき友人の税理士に相談して上手くやったほうだと思う。不満は無い。
 バーの暗闇に目が慣れてくると、カウンターの端に女が一人で座っているのに気がついた。その女はなぜか目を引いた。
 黒いドレスを着ており、長い髪を背中の中程まで垂らしていた。肌の色は抜けるように白く、顔や首だけでなくドレスの袖から見える手首までがまるで薄ぼんやりと発光しているように見えた。ほっそりとしているのに胸の辺りは形良く脹らみ、やや肉感的でもあった。
 女は両手でグラスを持ち、ぼんやりとしている風だ。
ハイドンのピアノソナタ静かに流れている。この店のBGMはいつもクラシック音楽で、大抵は古典派のピアノ曲が流れている。
 ハイドンのピアノソナタは、生前自宅でピアノ教室を開いていた妻が、よく生徒に宿題として与えていた。きっと技術的にさして難しいものでなかったのだろう。少し上達すれば小学生でも弾くことが出来たようだ。
 女が飲み物のお替わりを注文した。
「ティツィアーノ下さい」
 そして、そのあとにひとりごとのように言った。
「ハイドンだったかしら」
 俺は女を見た。まるで発光しているかのような白い肌に、赤くほんの少し厚みのある唇。口紅をつけて赤いといよりは、肌が白いので赤く見えてしまうのだろう。
 バーテンダーがCDを持ってきて女にタイトルを見せていた。有線放送を流しているのではないらしい。
 俺はそれほどクラシック音楽に詳しいわけではない。時折家で聞く程度だ。妻が亡くなってからはその回数もめっきり減った。 
 もっとも、子供が小さいうちは仕方がないのかもしれない。家で良く流れる音楽は、娘の好きなアニメの主題歌や、幼稚園で流行っている曲や、たまにちょっと落ち着いたものがかかっていると思うとそれは娘がバレエの発表会で踊るためのポピュラークラシックだったりする。それはそれでいいのだが。
 視線がついつい女にいってしまう。こんなことはしばらく振りだ。
 妻が亡くなってから女と個人的な付き合いはしていないし、したいと思うような女もいなかった。
 女は、一言で言ってしまえばかなり好みのタイプだった。これまで、初めて会った知らない女をこんなに気に入ってしまったことなど無かった。
 昔好きだった誰かに似ている気もした。でもはっきりとは思い出せなかった。そういう気がするだけなのかもしれない。
 女は少し離れた席でカクテルを飲んでいる。時折グラスを唇に当て、じっくりと楽しんでいるようだ。黒くてしっとりした質感を思わせる髪は、女が動く度さらりと流れた。

 妻の死は晴天の霹靂だった。そうとしか言いようがない。二年前の冬に、自宅の敷地内の物置小屋のなかで、首を吊って死んでしまったのだ。見つけたのは俺だった。そのときすでに硬くなりかけていた妻の体を、下へおろし部屋まで運んだ。ずっしりと重かった。
 その日のことは何度も記憶を反芻したのでよく覚えている。朝九時頃目を覚ますと、隣で寝ているはずの妻がいなかった。日曜日だったので早く起きる必要がなかったのだ。  
 別に不思議には思わなかった。妻はとっくに起きて家事でもしているのだろうと思った。幼児は早起きだから休日とはいっても妻はそう遅くまで寝ていられないのが普通だった。
 二階の寝室から階下に降りていくと、二歳になっていた娘がリビングのベビーサークルの中で、おもちゃで遊んでいた。妻は見当たらなかった。別の部屋にいるのかと、少し大きな声で呼んでみたが返事はなかった。訳がわからなかった。それまで妻が娘を置いて断りもせず外出したことはなかった。二歳の幼児を、例えベビーサークルに入れておくにしても、一人で置いておくのは危険なことだ。妻が出かけるときは、休日であれば俺が預かり、平日ならばベビーシッターか同じ敷地の別棟で犬と暮らしている母親に見てもらったりしていた。
 家の中をあちこち探した。キッチンへ入ると、朝食の準備を途中までしていたらしいことがわかった。鍋に水がはられ、だしを取るための煮干しと細めの短冊に切った大根が入っていた。炊飯器のスイッチも入っており、ごはんが炊き上がっていた。グリルを覗くと鮭の切り身が入っていた。味噌汁が好きな俺のために、朝は和食になることが多かったのだ。
 何だか様子がおかしかった。虫の知らせだったのだろうか、胸がざわついた。
前日の夜、妻に変ったところなどなかった。たまたま早く帰宅しており、家族で和やかな夕食の席を囲み、そのあとは酒を飲んで寛いだ。十二時頃眠くなって来たので、テレビで映画を見ていた妻を置いて先に寝ることにした。おやすみの挨拶をして二階に上がろうとすると、なぜか妻が階段の下まで俺を追いかけてきた。
「あなた、明日はお休みよね」
「ああ、そうだよ」
 今思えば変わったことと言えばあれくらいだ。妻は頷いてすぐにリビングに戻って行った。それが、生きている妻を見た最後になってしまったのだけれど、そのときの顔をなぜかはっきり覚えており、忘れられない。
 妻の顔は、なぜかその時薄黒く見えた。でも照明の加減だと思ったし、実際そうだったと思う。
 
家中探しても妻がいないと気が付くと、俺は同じ敷地内に住む母親に連絡し、妻が何か言っていなかったか尋ねてみた。母親も何も聞いていなかった。室内で飼っているゴールデンレトリバー犬にも特に変った様子は見られなかったという話だった。もっともその犬は母の犬で、犬嫌いの妻は寄り付きもしなかったのだが。
 妻の実家や友人へ電話することも考えたが様子を見ることにした。夕方まで待って戻って来ないようなら連絡を取ろうと決めた。妻は一人で何処かへ行きたくなったのかも知れないとも考えてみた。
 でも妻の外出着やコート、常に持ち歩いているバッグ、財布、携帯電話などはすべて家の中にあった。寒い季節なのにコートも着ずに外に出るなんて考えられなかった。
物置小屋に向かったのは最後だった。昔は農機具が入っていたと聞いているが、俺が物心ついた頃には殆ど空になっていた。潰しても良かったのだけれど今となっては珍しくなった古い道具類などが少しあり、とりあえず放っておいていた。
 敷地内にある建物はとりあえず全部見ておこうと思った。
 その扉を開ける前の気持ちをなぜか今でも覚えている。
 ここにはいないといいなあ、と思ったのだ。胸をざわざわさせながら。あれはおそらく予感というものだったろう。
 小屋の扉を開けると、すぐにそれが目の中にどんと入ってきた。
 こちらに背を向けるようにして、ぶら下がる妻。
 最初に見たのが正面じゃなくてまだ良かったのかもしれない。

 救急車を呼んだつもりだったのだが警察が来た。医者も勝手にやって来た。警察官は妻を見て、
「自殺ですねえ」
とあっさり言った。
 気が動転していた俺はその時初めて、そうか事件ということも考えられたのだなと思った。もう定年間近の年齢に見える落ち着いた物腰の警察官は、俺に向かって妻の首の辺りを指し示し、
「ほら一個しか跡がないでしょう、これが締められてから吊るされたりするとぶれてるんで一目瞭然なんですよ。それに落ち着いた顔されてますしねえ、覚悟の自殺でしょうねえ」
などと淡々と言った。
 俺はただ呆然と話を聞いているだけだった。
 家中を探してみたが遺書はなかった。
 妻は日記などもつけていなかった。
 どうして妻が自殺などしたのか、理由は全く判らなかった。今もわからない。

 妻とは友人の紹介で知り合って、一年程の交際の後すんなりと結婚した。お見合いに近い形での出会いで、双方の条件に適った結婚だった。
 妻は声楽や器楽の伴奏者としてはある程度の評価をもらっていたらしく、そちらの方で活躍するピアニストだった。妻はピアノを続けたいと言っていて、俺にも異存はなかった。もちろん条件に合っていたからだけではなく、妻のことを気に入って好きになったからこそ結婚したのだ。俺たちは相性がよく、上手くいっていたと思う。 
 でも俺は相性の良い妻だけでは足りなかった。それは妻のせいではなくて、酒もほどほどでギャンブルもやらない代わり、女に関しては少々だらしないところがあったのだ。
 結婚前から常に妻以外の女がいた。相手は何度か変わったが、女が切れたことはなかった。それらの女は妻とはまるで別だった。比べたことはないし、比べるような対象でもなかった。女は世の中にいくらでもいるし、ちょっと寝てみたくなることだってある。俺は確かに遊んでいたが、妻に気取られるようなことは一度もなかったと思っていた。
 そうではなかったのだろうか。
 妻の死後、その時付き合いのあった女たちとはすべて手を切ってしまった。そのあとも個人的に付き合った女はひとりもいない。妻の死が、俺の女に対する欲望をすっかり冷やしてしまった気がする。
 物置小屋の中でぶらさがっていた妻を思い出すたび、俺は自分のしていたことを考えて
しまう。物置小屋は壊してしまった。今は跡形もない。
 
「ハイドンは好き。耳の中を、右から左へ抜けていっちゃう感じがするから」
 女がバーテンダーと話している。俺はぼんやりとその様子を眺めながら、改めて妻の死後自分が女をじっくり観察したことなどなかったことに気がついた。
 女の声は小さかったけれど、耳を澄ませば内容が聞き取れた。
ふと辺りを見渡した。他に客はいなかった。席もそれほど離れていない。頃合を見て声をかけてみようと思った。昔は良くやっていたことだ。
女とバーテンダーの話し声が途切れた。タイミングを見計らって、俺はさりげなく女に話しかけた。
「ハイドン、お好きなんですか?」
 女がゆっくりとこちらを向いた。少しとまどっているような感じだ。黒目がちの、大きな目だった。酒のせいなのか、ほんのりと潤んでいた。
「驚かせてすみません。話し声が耳に入ってしまったものですから」
 落ち着いた口調でそういうと、女は少し安心したようだった。正面から見ても、女は全く俺の好きな顔をしていた。こんなに好きな顔はこれまで見たことがなかったんじゃないかと思う程だった。
「ハイドンも好きですけど…そうですね、古典派の音楽はお酒を飲んでる時なんかによく聞くんです」
 女が答えた。いい声だ。俺の好きな声だ。小さいけれど良く響く、ほんのり甘い声。
「お酒を飲むときに …ですか? なるほど、いいかもしれませんね。あ、失礼、名乗りもせずに。藤木と申します」
「藤木さん…」
 女がゆっくりとつぶやいた。いくらか酔っているのかもしれない。
 隣の席に移っても構いませんか、と尋ねると女はうなずいた。俺は席を移動した。バーテンダーがさりげなくグラスを目の前にセットし直した。
「藤木さんも、クラシック音楽がお好きなんですか?」
「ええ、好きです。あまり詳しくありませんけどね」
「わたしも、そんなに詳しくありませんよ」
 女が微笑む。俺に対して悪い印象は持たなかったようだった。まぁでも俺は女に嫌われるタイプではないらしいので、こういうときに邪険にされたことなどほとんど無いのだが。
 自分で言うのもなんだが、見た目はまあまあ悪くないほうだ。涼しい顔をしていると言われるし、定期的にテニスと水泳に行き体を動かし、体形を引き締めることにしている。酒だって弱い方じゃない。女を口説くことには昔から抵抗はない。しかしこういうことも慣れで、しばらくしていないと少し勘が狂う気がする。
「この店には良く来られるんですか?」
「たまに」
「俺も時折寄ることがあるんですけど、これまではお会いしませんでしたね」
「そうですね」
 俺は考えながら言葉を選んでいく。女は何歳位だろうかと思う。二十代後半から三十代前半かなと踏んだ。ポイントは顎から首の線だ。いくら肌のきれいな女でも一番先に老いが来る場所だ。
 でも一体何をしている女なのだろうか。それは想像がつかなかった。
 黒いドレスはシンプルな形で襟ぐりが開いており、白く形の良い胸の一部がほんの少し露出していた。グレイの柔らかそうな薄いショールを肩にかけている。黒真珠のペンダントはダイヤが添えられておりとても品のいいデザインだった。揃いのピアスがさりげなくのぞいていた。ウェストがシェイプされたデザインだけれどスカート丈は長く、くるぶしまである。小さな足には黒いエナメルのハイヒールを履いていた。細く高い踵には真珠の飾りがついている。こんな華奢な靴は久しぶりに見た気がした。こんな靴を履いて、ちゃんと歩くことは可能なのだろうかと思うほどだった。
 その辺りまで考えていて、俺はふと気がついた。女は妙に薄着で、十二月だというのにコートも持っていない。コートはクロークへ預けてあるだけかもしれないが …それにしても足元の華奢なハイヒールは、どう考えても冬の街中を歩くような靴ではない。少なくとも、女は外から歩いてこの場所へ来たのではなさそうだった。車で来たのか、それともこのホテルでパーティでもあってそのあとここへ寄ったのか。または宿泊客かもしれない。女との当たり障りない会話のうちに、俺は一人考えを巡らせていた。
 水商売の女かもしれないが、それにしては受け答えがいまいち下手だし化粧が薄すぎる。それに服装の雰囲気が若干違うようだ。考えているうちにふと思い出した。死んだ妻の友人達に共通の雰囲気。それと似ていなくもないと。
「もしかして音楽をなさってるのでは?」
 そう問いかけると、女は首を横に振った。
「そうですか。あなたは音楽家じゃないとすると、何をしてる人かなあ。なんだか見当もつかないな」
 そういうと、女は笑った。
「どうしてそう見えたんでしょう」
「知り合いに音楽をしている女性がいるのですが雰囲気が似てるなあと。それでなんとなく」
「そうですね …以前は確かにヴァイオリンを弾いていたことがあります。今はもうほとんど手にする事もありませんけど。まだそんな雰囲気がするなんて、不思議なくらい」
 女はそう言うとバーテンダーにカクテルのお替りを頼んだ。俺もウィスキーのダブルを貰った。
「わたし実は今日もうだいぶ飲んでるんです。これで何杯目かしら」
「お強いんですね」
「そんなこともないんですけど…今日は仕事がちょっと遅くまでかかってしまって。まっすぐ家に帰るつもりだったんですけど、なんとなく …。一緒にいた人を撒いて来てしまったんです」
 女はやはり少し酔っているのかもしれない。俺という見知らぬ男への警戒心がだんだんほどけてきているのがわかる。
「遅くまで大変でしたね。なにかトラブルでも?」
「トラブルというほどのことじゃないんですけど、仕事がイヤになってしまって。いつものことなんですけどね」
 女は溜め息をついた。
「それじゃ大変だ」
 俺が言うと女は黙ってうなずき、グラスを唇に運んだ。やはり水商売かなと思った。嫌な客を撒いてきたのか。そう考えるのが自然だ。
「以前はオーケストラにいたんです。大したお給料は貰えなかったけれど、毎日が充実していたし、楽しかった」
 女が急に明るく言う。
「オーケストラにいたんですか。もしかして、俺も聞きに行ったことがあるかもしれないな」
 女が名の知れた楽団の名前を挙げた。そこで弾いていたのだという。結婚前に妻と聞きに行ったことのある楽団だった。そう言うと、
「ご結婚していらっしゃるんですね」
 女にそう言われ、俺は少し躊躇しながら答えた。
「いえ、妻は二年前に亡くなったんですよ」
「あ ...ごめんなさい」
 女は口を押さえて小さな声で言った。俺が笑いながらいえいえ大丈夫ですよ、と言っても女はしきりに済まながっていた。
俺は女を見つめているうち、不意にあることに気がついた。女が、一体誰に似ているのか。さっきまで思い出せなかったことを思い出した。女は、絵の中の女に良く似ていたのだ。誰の絵かはわからない。著名な画家の絵だと思うのだが、あまり絵に詳しくない俺には判別がつかない。それは亡くなった父の書庫にあった画集の中の絵で、聖母マリアを描いたものだった。
 子イエスを抱く母マリアの図。どこにでもあるといえばそんな感じの聖母子画。子供の頃、俺は妙にその絵が気に入り画集を開いては見ていたのだ。その絵の聖母マリアは、今思い返すとちょっと官能的だった。不謹慎かもしれないけれど。しかしそんなこと、今の今まですっかり忘れていた。
「本当にごめんなさい」
 女の声が聞こえ、我に返った。
「あ、ああ、ほんとに気にしないで下さいよ」
 俺がおどけながらいうと、女はようやく安心したようだった。気の良い女なのかもしれない。死んだ妻のことではなく子供の頃見た聖母マリアの絵を思い出していただけなのに、俺が急に黙り込んでしまったので誤解したのだろう。
 女が手元に置いてあったハンドバッグを引き寄せ、中から黒革の煙草ケースを取り出した。女のハンドバッグはシンプルな形で、財布一つ入らないんじゃないかと思うくらい小さかった。中から出てきた煙草ケースは良く見ると小さなダイヤやサファイア、ルビー、エメラルドなどの宝石類を使った細工が全面に施してあり、その中心には大きな黒真珠が丸く埋め込んであった。一目みただけでかなり高価な品物とわかった。
 女はバーテンダーにマッチを持って来させると、ケースの中から細く長い煙草を取り出し、ゆっくりと火をつけた。女のその悠長な動作を見ていたら、なぜか俺は江戸の花魁が煙管を使っている様子を思い出した。俺もスーツのポケットからマルボロを取り出すとライターで火をつけた。女が煙草を嫌うかと思い遠慮していたのだ。
「わたしね、すごく変った仕事をしてるんです」
 女が唐突に話し出した。煙草に火をつけたせいでもないだろうが、ほんの少し女との間の空気が薄くなった気がする。女は酔っている。俺はそう確信した。この女の酔いはきっと、こんな風に出るのだろう。例えば、バーで隣に座った見知らぬ男に唐突に自分の話を始めるなど。
「あ、ごめんなさい」
 まだ酔いきっていないのだろう、女が我に返ったように言った。
「構いませんよ、お話して下さい。変った仕事…の話、ですか。興味がありますね」
 女は煙草の煙を燻らせながら不安げな様子で俯いてしまった。俺はグラスが空になっているのを見て、バーテンダーを呼びウィスキーとカクテルを追加してもらった。
 バーテンダーは一人黙々と仕事をしているようだ。離れた場所にいるし、聞き耳を立てている様子はない。
「じゃあクイズ。わたしは男の人の幻想を叶えてあげる仕事をしています。さて、どういうお仕事でしょうか?」
 女が再び話し出した。少し口調がくだけてきている。いい感じだ。
「男の幻想?」
「そう。男の人の幻想。幻想というより妄想かな。でも、大人限定ね」
「大人限定の妄想か。そりゃあやっぱり」
 俺はいいかけて口を噤んだ。それはもちろんセックスに関することだろうと思ったのだが、いきなり口にするのは憚られたのだ。
「やっぱり、何?」
 女が笑う。一本吸い終えると煙草ケースをバッグに仕舞い、ゆっくりと飲むだけに戻った。チェーンスモーカーではなさそうだ。俺は二本目に火をつけた。
「いいわ。教えてあげる。それは性行為です。見当はついてたんでしょ」
 女がちょっと声をひそめながら言う。
「セックス産業のひとつといえばひとつね。その人のしたいことを、わたしはさせてあげることができるの。でも、わたしが直接、してあげるわけじゃないんだけどね」
「ふうん、そうすると、君はそういうお店を経営しているの? 女の子を使って」
「違います。お店を経営したりはしていません」
 俺は女の言っていることが良くわからなかった。
「わたしは風俗嬢ではないの。風俗店を経営してるわけでもない。まあでも、同じようなものかもしれないけれどね」
「よくわからないな。じゃあ、紹介業? 電話一本で女の子を派遣する、とか。よくあるよな、そういうのも」
「それも違う。なんて言ったらいいのかな。世の中には、とんでもない願望を持っている人って結構いるのよ。いわゆる変態ね。わたしの、核となるお客さんは、ほとんどがそういう人たち。どんなに高い料金を支払ってでも、自分の願望を叶えたい人たち」
「そうか、わかった。イメージクラブみたいなところに勤めてるんだろう? あれって、直接の行為はなかったりするらしいね。行ったことはないけど」
 俺は女は好きだが、昔から風俗店などにはあまり興味がない。だからどんなものかよくわからなかったのだが、適当に言ってみた。
「それも違うわ」
 女が笑う。
「わからないな。想像もつかないよ。俺、あまりそういうの詳しく無いし」
 匙を投げた。
「いいわ、もう教えてあげる。わたしは、男の人の手を握ってあげるの。それが仕事。具体的にはたったそれだけ」
「手を握る?」
「そう。手を握ってあげるの。どういうことか、知りたい?」
「知りたいよ、もちろん」
 女は語り始めた。
 これが、結構長い話だった。その間、俺と女はどれだけの量の酒を飲んだことだろう。
 
 それは全く信じ難い話だった。要するに、女には特殊な能力があるというのである。それは他人にリアルな幻想を見せることが出来るという力だ。ただそれは、なぜか性行為に限られている。性幻想のみを女は客に見せてやることが出来る。そしてそれは射精を必ず伴う。放出したところで男は我に返るのだという。
 やり方も大体決まっているらしい。ホテルの一室で、裸にバスローブを羽織りしっかりと目隠しをした男の隣に女が座る。そして女は、男の手を握る。そこから先は理屈のさっぱり通らないオカルトの世界だ。
 男の手のひらを触っていると、内側から凝りのようなものが表面に浮き上がってくるのだそうだ。そしてそれを女は指でほぐしてやる。それは丁度肩こりをほぐしてやるような感覚で行うらしい。すると間もなく男は荒い息を吐き、口から涎をたらし、場合によっては声まであげながら射精する。その間約十分ほど。幻想は進みが早く、本人が感じている時間と、現実の時計はかなりずれているのだという。
 男の幻想は様々で、女も目を閉じればその世界を見ることができるが、大概はかなり気持ちの悪いものなので、わざと目を開け見ないようにしていることが多いらしい。
 世の中には変った趣味を持った男がけっこういて、現実にはそれを行うのが不可能だから、例え幻想でもリアルに感じられるものならば高い金を払ってでもやりたいという男が後をたたないのだという。そして、彼女が見せる幻想はかなりのリアリティを伴うものなので、一度それを体験しやみつきになった変態は、殆どがリピーターになるとのことだった。
「だってね」
 女がさらりと髪を揺らしながら言う。
「現実にはセックスしながら相手の女を殺したりできないでしょう。死体とセックスするのも難しいわね。ロリコンなんかもそうね。SMだってハードなものになれば、相手を探すのは簡単じゃないわ。よくあるところではレイプとか痴漢とか。監禁妄想がある人も結構いるかな。そういった、実際には実現できない願望が自分の思い通りに目の前に展開するんだもの。変態度が高い人ほど、お金をためてまた申し込んでくるわ。幻想のお値段は、けっこう高いんだけどね」 
 面白い酔いかたをする女だなと思った。こんな話をいきなり、知らない男にするなんて。 これで酔っていなければおかしいくらいなのだが、女は言っていることが変な割には全く顔に出ていない。
 俺は思い出す。
 そういえば死んだ妻も酔いが顔に出ない女だった。結婚前には二人で飲みに行くこともあったが、妻は顔に出さなかったし、飲みすぎて具合が悪くなったりということもなかった。いつまで飲んでいても、まるで飲んだものがその場で蒸発してしまったかのように、妻はいつもと変らぬ風に笑っているのだった。
 今思えば、結婚後は妻と外で飲むことも無くなってしまったし、妊娠がわかってからは妻はアルコールを一切口にしなくなってしまった。今思えば、ほんとうに妻は良い母になるべくがんばってくれていた。
 それなのに俺は。
   
「藤木さん?」
 女が俺をのぞき込む。髪の毛が流れるように手元に落ちた。
「ねえ、飲みすぎちゃった?」
 俺はいつのまにかぼんやりとしていたらしい。この女と一緒にいると、不思議にぐるぐるとした自分ひとりの回想の中に引き込まれてしまうような気がする。
「そんなことはないよ。ところで君は大丈夫なの?」
 女だってかなり飲んでいるはずだ。
「どうだろう、わからないな。わたしちょっとおしゃべりかもしれない。多分酔ってるのね。ここのお酒と、素敵な藤木さんに」
 女が調子よくそんなことをいう。酔っているのだろう。そうとしか思えない。そのうちに不意に黙り、小さく溜め息をついた。時刻はすでに深夜を回り、相変わらず客はいない。俺は久しぶりに、深い酔いの中にいた。
「本当は、嫌なの」
 女がつぶやいている。
「嫌なの、こんな仕事。でも、わたしにはもう他のことはできないの。この力を利用して生きていくしかない。中学生くらいの頃から薄々感じていたけど怖くて隠してた。男の子と付き合ったことなんてなかった。だって手を繋がない恋人同士なんていないものね。わたしはとにかく、男の人と手を握り合うわけにいかないんだから。もちろん恋人もできない。結婚なんかもっとできない」
「確かに、そんなおかしな特殊能力があったら、男性とつきあうのは難しいだろうね。でも、ひとりでそんな、ある意味危険な商売ができるの?」
 俺は半信半疑ながらも、女に尋ねた。
「今は、会社じゃないけど …とある事務所に属しています。それもほんとは嫌だけど、そうじゃないとやはり怖いから。仕事に関しては諦めたの。オーケストラじゃ稼げないから。わたしが手を握ってあげることで男の人達がどんな妄想を果たそうと、わたしの知ったことじゃないものね。見ないようにすれば、見ないでいられるし。わたし、子供がいるの。育てるのにはお金がかかる。それに母親としてなるべくそばにいてやりたい。そう考えると、わたしができる仕事はこれしかないのよ」
「君、子供がいるの」
 俺はちょっと驚いてしまった。目の前にいる女は、子持ちという感じは全くしなかった。
「ええ、います」
「何歳?」
「今月の誕生日がくれば四歳」
 女はにっこりと笑った。
「クリスマスの朝に産まれたんです」
 そう話したときだけ、女は幸せそうに見えた。
「そうだね、子供を育てるのは、お金がかかるよね。四歳か、うちにも同じ年の娘がいるからわかるよ。幼稚園だの習い事だの、親は大変だよな」
「ええ、ほんとに。この仕事は短い時間でたくさんお金がもらえる。だからやめることはできない。事務所がお客さんからいくら貰っているかは知らないんだけど、わたしにも結構な額のお金をくれるわ。場所は大抵、ここみたいなホテルの部屋。中で二部屋に仕切られているところをいつも使うの。スウィートか、それに准ずる部屋。お金のないひとは幻想さえ買えないわね。わたしがお客の手を握って導いているあいだ、事務所の担当者が手前の部屋で待っているシステムになっているの。わたしに危険が及ばないように。そしてその際、お客には厳重に目隠ししてもらうことになってる。けしてわたしが見られないように」
「見られるとそんなに困る?」
「第一にやはり危険だから。特殊能力ですもの。それと、相手に見られることによって、わたしが相手の幻想に引き込まれてしまう場合があるの」
「それは君の意志に反して、ってこと?」
「そういうこと。するとね、ちょっと面倒なことになっちゃうのよ ……。お客の中には有名人なんかもいるわ。みんな性に幻想があるのね。幻想は、その人が本当に見たいものが現れてしまうらしいの。今日はこの幻想で、なんて注文をつけられるものでもないらしいのね。クレームがついたことはないから、何が出てもそれなりに満足できるってことなんでしょうけど」
 俺は女の話を聞きながら、自分の幻想は一体なんだろうと考えていた。取りたてて人に隠さなければならないほど変態的な趣味もないし、となると、やはり幻想の対象は相手のことになってくるだろうか。今自分が幻想を見るとしたら、一体何を見るのだろう。たとえば、妻と俺がもう一度交わることが出来るとでもいうのだろうか。
「訊いてもいいかな」
「どうぞ」
 女が優しい声で答える。
「そういった幻想を求めてくる人で…例えば、亡くなった奥さんとしたがる人なんているのかな」
「いるわ」
 女は静かに答えた。
「でもね、そういう人は、大抵、一度だけのお客様ね。のぞいてみたこともあるわ…みんな、普通にセックスしてた。本当に普通に。自宅でね。時計の音や、虫の声がしたり。そういったことを望む人は、やはり年配の人が多かったわ。先に奥さんに死なれた人ね。きっと寂しいのね。奥さんに頭を抱っこしてもらったりしているわ。もう、子供のようになって。幻想の中では、奥さんが死んだってわかっていないの。夢の中みたいなものだから。そばでは赤ちゃんがすやすや眠っていたりしてね。最近じゃなくて、昔の夢なのね。大抵、自分も、奥さんも若くて。幻想そのものはセックスが主体だけど、それも安らかな思い出なのね。でもね、射精してしまうと、強制的にその幻想は終わってしまうの。夢から一気に覚めてしまう。そのときの喪失感が大きいらしいわ。わたしが見せてしまうのは、夜見る夢なんかとは桁違いの、あまりにもリアルな幻想だから。泣いてしまうひともいた。そういう人は、大抵、一度きりのお客様ね。二度と来ないわ。だって、どんなにリアルでも幻想なんだもの。かえって切ないでしょう」
「なるほど」
 俺はうなずきながら、それでもいくらかまだ酔いの回っていない醒めた部分の頭で考えていた。どう考えたってこんな話おかしいじゃないか、こんな話、ある訳がない、全部嘘だ、と。
「奥さんとしたいの?」
 不意に女がいう。
「そうなのかしらと思ったから。急にごめんなさい」
 俺は混乱し、どう答えればいいのかわからなくなった。
「そうしたいのかどうか、よくわからない。妻は自殺したんだ」
 俺は言った。女は黙っていた。
「ある日突然。なんの予告もなかった。理由はわからない。遺書も日記も、何もなかった。でも考えていると、理由なんかたくさんあるような気がしてくるんだ。俺にはその時妻の他に女が何人もいて、妻とはあまり会話も無くてね。でも、普通に暮らしていたし結婚生活なんてそんなもんだと思ってた。妻に浮気がばれていたのかどうかはわからないけど、妻が自殺なんかしたのは、もしかしたら俺のせいもあったのかもしれないと思うと、なんだか、やり切れなくてね」
 こんなことを知らない女の前で言うなんて、と思いながら俺は夢中だった。
 女はしばらく考えている様子だったが、そのうちポンと手を打った。
「それ、藤木さんのせいなんかじゃないわ。育児ノイローゼよ」
「育児ノイローゼ?」
「たぶんね。そうだと思う。二年前ってことは、お子さん二歳でしょ。二歳っていうのはね、魔の二歳って言われて、育児が一番大変な時期って言われているのよ。わたしも大変だったもの。おそらく、奥さんは藤木さんの浮気に気がついてる暇なんか無かったと思うわ。だから、奥さんの自殺は藤木さんのせいなんかじゃない。それに、本当のところは結局何もわからないのに、自分のせいかもしれないなんて思っていても、仕方ないでしょう。こういうことって、生きている人がいくら考えたって、わかるわけがないのよ。だって死んじゃう人の考えだもの。藤木さんは今、残された娘さんをがんばって大事に育てているんでしょう。それでいいのよ。もう気に病む必要はないわ」
 俺は女の言葉を反芻してみた。女は子供の頃見た聖母とそっくりの顔で、慰めるでもなく、あっさりとそんなことを言う。でもなぜか妙に安心してしまった。
「ところでわたしの話、どこまで信じている?」
 ふと女の声が響いた。まるで俺の心を見透かしているかのようだった。
「さっきの話。おかしな話だなって思ってるんでしょ」
 俺は苦笑いをした。
「多少ね。面白いとは思うけど」
「じゃあ、試してみる?」
 女はあっさりそう言って、右手を差し出した。俺は戸惑った。
「だって、藤木さん、信じてないんでしょう? 信じてないなら、いいじゃない」
 女はくすくすと笑っている。どういうつもりなのだろう。ただ、酔っているだけなのか。一体俺はどうすれば。
(なんだ、そうか)
 急に目が覚めた気がした。現実的に考えれば、これは、女が回りくどく誘っているだけではないのか。そう思いついた俺は、ちょっと自分を笑いたくなってしまった。いい大人がこんな話を半ば本気にするなんて。
「全く信じていないわけじゃないよ」
 俺も笑いながら答えた。今度は落ち着いて、余裕を持って笑えた。戸惑いは無かった。
(そうか。新手のナンパみたいなものなんだな。手を握るだなんて ...ありがちといえばありがちな話だ。そうすると、この女はやはり娼婦の一種と見ていいのかもしれない。もしかしたら料金が法外に高かったりして ...しかしまぁ滅多にいないくらいに、好みのタイプの女だから、多少の額なら払ってもいい)
「ふうん、じゃあ、やめておく?」
 女も笑いながら言う。
「いや、ぜひ君の手を握らせてもらいたいよ。でも握ると大変なことになってしまうんだろう? 君の話によればね」
「それはどうでしょう?」
「だって君はさっき自分でそう言ったじゃないか」
「そうね」
 俺はちらっと時計を確認すると、バーテンダーを呼び精算を済ませ、このホテルの中に部屋を一室取ってもらうよう頼んだ。明日も仕事だが、午後出社にすることが可能な職場なので、朝までこの女と一緒にいてもいいと思った。一夜を過ごしたら朝食を一緒にとって連絡先を交換する。昔もよくこんなことがあった。悪く無いと思える女に出会ったときの、いつものパターンだった。
「君の手、ゆっくり握らせてもらうよ」
 俺は優しく女に言う。
「このホテルに部屋を取ったよ。そこへ行こう」
「いいわ」
 女も頷き、二人でエレベーターに乗り部屋へと向かった。

 部屋に入ると、女は何も言わずベッドに腰掛けた。俺はすぐにでも押し倒そうかと思ったのだが、ふと、目の前に投げ出された女の手を見つめてしまった。
 真っ白な手。細い指。丁寧に整えられ、薄いマニキュアが施された爪。こんな綺麗な手をした女は見たことがないような気がした。
 じっと見つめていると、その手には確かに、握らずにはいられなくなるような魔力があった。それは目の前にいる女を象徴してるような気もした。
 俺は一瞬躊躇したが、まるで吸い寄せられたかのように女の左手を握り締めてしまった。
 すると、女が右手を伸ばして来て、まるで手のひらをマッサージするかのように、俺の手をそうっとさすりはじめた。
 その途端、背筋に妙な快感が走り、そのあとすぐに、俺の意識は落っこちてしまった。

 気がつくと俺は、田舎の無人駅のようなところに立っていた。そこは、見たことがあるような風景なのだが、はっきりとは思い出せなかった。ホームはあるけれど、駅名の看板もない。それなのに、ちょうど俺の足元から赤い毛氈のようなものが引いてある。それは駅舎に見える小さな建物の、一つだけの扉に続いていた。
 辺りは暗い。夜なのだ。線路は単線で、暗闇から来て暗闇に続いていた。駅舎には小さな灯りがあり、そこだけが目印のようになっていた。俺は毛氈の上を歩き、ひとつしかない扉を開けた。迷いはなかった。
 するとそこにさっきの女がいた。女は、幼稚園児くらいに見える男の子と、レゴブロックで遊んでいた。そして俺を見ると、にっこりした。
「いらっしゃいませ。お待ちしていました」
「どういうことだ?」
「ここ、わたしの家です」
 確かにそこはごく普通のマンションの一室、のようなところだった。小さな駅舎のドアを開けたはずだったのだが、中は全く別世界だった。
 対面式のキッチン、窓の外には小さいバルコニー。明るい色調のフローリングの床には毛足の長いベージュのラグマット。全体的に小さい作りな気もされるが、貧しいような様子はない。部屋の中はクリスマスの飾り付けでいっぱいになっていた。
「ここでわたし、子供と二人で暮らしているの。お金を貯めてやっと買ったマンションよ。ちょっと狭いけど、とっても幸せ」
 女はキッチンでコーヒーを入れながらにこにこと話した。
「はい、どうぞ」
 目の前に、香りの良いコーヒーが出された。
 小さな白木のダイニングテーブルと北欧風の照明が、この部屋の雰囲気に良く合っている。クリスマスの飾りが賑やかだった。外はもう暗いが、部屋の中は明るく暖かだった。
「うちの子、紹介します。クリスマスの朝に生まれたからイエスくん …と言うわけにもいかないから、名前は良太です。ほら、おじさんにごあいさつしなさい」
「こんばんは!」
「あ、ああ、こんばんは」
「ちなみにわたしはマリアです …というわけにもいかないので、真里子です」
 俺は目の前に出されたコーヒーを飲みながら、話を聞いているしかなかった。
「さて、そろそろ良太くんはねんねの時間ね」
 女が子供を寝かしつけに奥の部屋へ行き、俺はぼんやりと待った。
 窓の外には何も見えない。暗いだけだ。いったいここはどこなのか、これは夢なのか夢じゃないのか。ただ、不思議と、怖くはなかった。しばらくして女が戻って来た。
「はい、お待たせ」
「ええと、真里子さん。これは一体どういうことなんだ?」
「藤木さんにお願いがあるの」
「お願い?」
「あのね、わたしあの子に兄弟を作ってあげたいの。良太が弟か妹をとても欲しがっているのよ。だから」
 そう言いながら、唐突に女は着ていたドレスを脱ぎ始め、セクシーな下着姿になった。なんの前置きもなかった。俺が想像していた通りの、細身でありながらなかなかグラマラスなボディが目の前に現れた。白く滑らかな肌に大きな胸。くびれた腰。柔らかそうなヒップ。すべすべとした形のいい脚。
「すごい。いい体だ」
 俺が思わず言うと、
「そうでしょ。思った通りでしょ。理想的でしょ。こういうの、好きなんでしょ」
 女がクスクス笑いながら俺の首に手を回して来た。
「キスして」
 俺は女の体に手を回し、キスをした。久しぶりのキスで、久しぶりの女の体だった。
 唇を離すと、女が言った。
「わたしを見たから、こうなっているのよ」
「どういうことだ?」
「手を握るとき目隠ししてもらう理由は、男性の幻想に引き込まれると、こうやってわたしが抱かれてしまうことにもなりかねないからなの。そうするとね、赤ちゃんができることもあるのよ。良太のときにはね、途中でお客さんの目隠しがはずれてしまって、それで出来てしまったの」
「そんなバカなこと」
「あるのよね。だってわたし、本当は処女なんですもの。赤ちゃんを産むなんて、変でしょ」
「嘘つくなよ」
「嘘なんかついていない、全部本当のことよ。わたしは処女。現実には、生まれて一度も男性に抱かれたことはないのよ。さっき、誰ともつき合ったことがないって話したでしょ。だから、良太ができたときにはね、信じられなかったけどとてもうれしかったの。わたしは一生子供を持つことなんかないんだろうなと思っていたから。やっと先日、マンションも買って、生活も落ち着いて来たから、わたし、あの子に兄弟を作ってあげたいと思ったの。最近ずっと、そう思っていたのよ」
 俺の頭は混乱するばかりだった。が、とりあえず、目の前の体は見逃せなかった。女の話は理解できるのだが、頭のどこかがおかしい。普段ならもっと強く理性が働いているはずなのだが、それがどこか麻痺している感じがした。
「処女だなんて嘘つくなよな。処女がこんなエッチな体してるわけないだろ」
 女の体は成熟した大人のもので、青臭さはどこにも無かった。ちなみに俺はもともと処女もお子様も趣味じゃないので、そういう意味でも理想的だった。
「それはね、あなたの幻想よ。あなたが、わたしの体を勝手にイメージしているのが出ているの。でもそんなことはどうだっていいわね」
 俺は女を押し倒した。場所はリビングの床だ。女は痛いかもしれないが、頭のどこかで、これは幻想なのだという思いもあった。しかしその感触は異様に生々しかった。
 俺は夢中で女を責めた。久しぶりだったこともある。薄い下着を全部はぎ取ると、見事な女体が現れた。女を抱き起こし、ベッドはどこだ、と尋ねると子供が寝ているので寝室はダメと言われてしまった。仕方なくソファに運び、キスをした。女もあまり慣れていないのか、最初はなんだか固くなっているような感じだったけれど、腰を抱いてしっかりと密着させ、逃げられないように顎を支えながらゆっくりキスしているうちに緩んできた。力が抜けたな、と思ったとところで一旦やめた。唇を離すと、女は目を潤ませていた。
「いや …。なんか熱い」
「当たり前だろう、抱かれてるんだから」
「子供、作るだけでいいのに」
「バカか、君は」
 女が顔を赤くしたまま目を閉じた。そのまま膝を割って、今度は胸周りを優しく愛撫しながらキスをした。少し怖がって早く済ませたがっているようだから、むしろゆっくり抱いてやろうと思った。
 大きな乳房をそっと持ち上げるようにして乳首をじっくりと舐めてやり、ヴァギナに指を入れるともうすでにたっぷりと潤んでいた。
「だめ、声が出ちゃう」
 女は必死に我慢している様子だった。隣の部屋で子供が寝ているのだから当然かもしれない。女の口を手で塞いでやり、足を広げさせるとヴァギナの入り口を長めに愛撫した。女は脚をばたつかせながらびくびくと体を震わせた。
「本当にもうやめて …もう、入れて」
「嫌だね」
「ひどい」
「なんでひどいんだよ。気持ち良くしてやってるのに」
もう一度押さえつけて口を塞ぎ、指を入れて中を探った。大抵の女は奥の上側に感じる部分がある。あまりしていないなら慣れていないだろうが、この女はわりと敏感そうだから、教えればすぐにくせになるんじゃないか。指にざらつきを感じて、ここかな、と思った。そうっとそこを撫でると、女は強く俺を押して暴れた。そうかここだな、とわかったのでさらに脚を押し開いて、動けないよう抑え、女が何度も痙攣してぐったりするまで愛撫を続けた。
その後やっと、入れてやることにした。固くなったペニスをゆっくりと女の入り口に当てると、膣壁が吸いついてくるようだった。
「ああ」
 思わず声が出た。想像以上に気持ちがいい。根元まで埋め込むと、子宮の入り口に当たっている感じがした。俺はゆっくりと動かした。女は喘ぎながらうれしそうに俺を見つめた。
「素敵よ、藤木さん …中に、たくさんちょうだい」
「いいのかほんとに」
「子供の兄弟が欲しいって、いったでしょ」
 どっちにしろ俺は、長く我慢することはできそうになかった。ヴァギナの締め付け具合から女の喘ぎっぷりまでが理想的なのだ。これが幻想の力なのか、この幻想は俺だけのものなのか、それとも女も一緒に見ているものなのか、女はちゃんと感じているのか、何がなんだかわからないまま俺は快感に溺れ夢中になってしまった。あまりの気持ち良さにすぐにはいきたくなくて、我慢をしているとそれにさえ軽い絶頂感が襲って来る。
 俺は女を見る。子供の頃見た聖母の絵にそっくりな女。目を閉じ、喘いでいる。
 そうだよな、もう妻はいないんだ。死んだものの理由を考えても仕方がないというのは真実かもしれない。聖母は案外薄情なこと言うんだな。しかしどうしてこの女はこんなにあの絵に似ているんだろう。どうしてこんなに俺の好きな顔をしてるんだろう。女も切ない声を上げながら俺に腰を押し付けて来る。ダメだそんなにされたら、 
「ああっ」
 あまりの気持ち良さに思わず声が出て、射精した …と思ったら、俺はいつのまにかホテルのベッドで、ひとりきりで寝転んでいた。
 体中がだるく、すぐには起き上がれなかった。すでに女はいなかった。
 下半身だけが裸にされており、履いていたズボンは脱がされ、汚れないようにとのことなのかハンガーにかけてあった。
 腰回りはかなりみっともないことになっていたが、周囲にちゃんとタオルが敷かれ、被害は最小にとどめられているようだった。
 時計を見て俺は驚いた。さっき、バーテンダーに部屋を頼んだときから一時間も経っていない。移動時間を含めたら、この部屋には三十分程度しかいなかったことになる。
(そういえば、幻想は現実の時間より早く進むとは言っていたが)
 俺はシャワーを浴びた。熱いシャワーをかぶると、少し冷静さが戻ってくるような気がした。なぜ女が消えたのか、を考えても仕方ないだろう。消えたかったから消えただけだ。
 今日の幻想のことだって、考えたからどうにかなるわけでもない。もともとありえない、信じがたい話なのだ。
 女はいなくなってしまったが、今から部屋をキャンセルするのも面倒になり、俺は結局そのまま、ホテルに宿泊した。



 まぁでも俺は、そんなことはすっかり忘れていたんだ。
 人間は現実に押し流されて生きている。
 たとえば、たまたま幽霊を見たからって、それで人生が変わるなんてことはない。普通はそうだろう? 今となっては、あの女が実在したのかどうかさえ定かではないけれど、俺にはそんなことを確認する気も暇もなかった。あのバーへもあれっきり行っていない。
 そんなわけで相変わらずの暮らしをしていた俺は、平日休みのある日、娘のお迎えに幼稚園へ行った。俺だって休みの日くらいは、ベビーシッターや母親まかせにせずに、娘の面倒をみることにしているのだ。けなげな父子家庭なのだから。
 娘も、やはりひとり親だからということもあってか、俺といるのが一番楽しそうだ。そんな姿を見ていると、母親が早くに死んでしまったことが不憫で仕方ないが、だからといって短絡的に新しい母親がいればいいなんてこともないはずだと俺は思う。俺自身も、特に寂しさなど感じない。どっちにしても他の女が本当の意味で妻の代わりになれるはずがないのだ。
 俺がいつも通り園児の下駄箱前で娘を待っていると、どこかで見た女が園庭の向うから歩いて来るのが見えた。
 もちろんここは幼稚園だから、娘の友達の母親だったりなど、顔見知りのお母さんたちは多い。けれどその女はそういう知り合いではなかった。ここでは初めて見る顔だった。
 俺はわけもなく焦った。頭の中で警報が鳴っている、けれど理由がわからない、そんな感じだった。その場から逃げ出すのも変だが、そこにいるのも落ち着かなかった。
 そのとき、娘が奥から走り出て来た。
「パパー」
「おお、美咲。帰るぞ」
 俺は慌てて娘の手を引き、先生への挨拶もそこそこに帰ろうとしたのだが、娘はそんな俺を逆に引っ張った。
「パパ、今日から来た新しいお友達だよ、良太くんって言うんだよ」
 娘の隣に、新しく来た園児だという男の子が立っていた。娘は人見知りするほうで、新入りの子とすぐに馴染むタイプではない。けれどその男の子とはすぐに気が合ったらしく、何やら楽しそうに会話をしていた。
(今、良太、って言ったよな。確か、良太って)
 俺は男の子のつけている名札を見た。
「はしもと、りょうた、くん ...」
 俺は完璧に思い出した。
(そうだ、歩いて来るのはあの女じゃないか。そして目の前にいるのは、あのときの子供だ)
 俺が言葉を失って子供たちを眺めていると、後ろから声がかかった。
「はじめまして、橋本です。さっそくうちの良太がお嬢さんに仲良くしていただいているみたいで、ありがとうございます」
 女がにこやかにそつなく頭を下げていた。
「ああ、は、はあ、いえいえ、こちらこそ」
 俺は何を言ったらいいかわからなくなくなってしまった。
「それじゃ一緒に帰ろうよ!」
 娘の一声で、俺は女と良太くんと一緒に幼稚園を出ることになってしまった。
「それじゃあさようなら、また明日ね」
 先生たちの明るい声に見送られ歩き始めたのはいいが、俺は完全に混乱していて、ちょっとした段差につまずいたりなどしてしまった。
「大丈夫ですか」
「は、はい」
 俺は短く答えた。何を話したらいいのかさっぱりわからない。第一、女の方はポーカーフェイスで、こっちに対して気がついているのかいないのか、それさえよくわからないのだ。
「パパ、ねーねー、良太くんね、弟か妹が生まれるんだって! いいなぁ」
 娘は良太くんと手を繋ぎ、俺の前を歩いている。そして時折振り向いて、しゃべりかけてくる。俺はギクリとした。
 俺は隣を歩く女に、思わず話しかけた。
「そうなんですか」
 見ると、女の腹が少々膨れている。
「そうなんです。今、七ヶ月に入ったところなんですよ」
 女もにこにこ顔で言う。うれしそうだ。そういえばあれから、半年くらいは経つはずだ。 この女は特に俺だからと意識している様子はない。一体どういうことなんだろうか。あのときのあれは、あの話はなんだったんだろうか。もしかしたら俺のことを、この女は覚えていないのだろうか。それとも、俺の頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「美咲も、兄弟、ほしいなあ」
 娘が大きな声で言う。
「それは無理だよ、美咲にはママがいないだろう」
 俺は仕方なく答える。これは本当のことだ、しょうがない。
「でも、良太くんもパパがいないんだって。でもちゃんと兄弟ができたんだよ」
「こら。良太、そういうこと、お友達に言っちゃダメでしょ」
 女が笑いながら良太くんにいう。俺は思わず女を凝視してしまった。すると、女も俺を見た。
 その目で俺は、女がちゃんとわかっていることを知った。
 すると、良太くんが俺をじいっと見ながらいった。
「ぼく、美咲ちゃんのパパに、会ったことがあるような気がするなあ」
「それは、きっと夢の中で、じゃない?」
 女はそう言いながら良太くんの頭を撫でた。
「それでは、また明日。わたしたち、こっちですから」
 二人は、途中で別れ道のほうへ行ってしまった。
 娘と俺は、しばらくの間道ばたに立って、俺は呆然と、娘はにこにこと、二人を見送っていた。


                                おわり




もしかしてブログ出すの初めてかも。
けっこう前に書いたものだけど、これはR18文学賞で二次選考まで通ったやつで、でも最終には残りませんでした。
男一人称はこの作品が最初で最後で、その後書いてないので、
難しかったなーという印象です。
やっぱり自分が男じゃないですしねー
正直なところ、自分が読むときも作家が男で女一人称とか若干違和感を感じることが多く(ものによりますが)
そう思えば、男一人称はつらかったのかなと思いました。
内容はというと書きたかったことが書けたので良かったと思います。
デルヴォーの絵が好きなので、満足☆

感想など喜びます。
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短歌講座

先週の土曜日はせんだい文学塾が一か月ぶりに開催されましたが(毎月やってます
穂村弘先生が来てくださいました。
俗にいう「ほむほむ」ですよ
文系女子の憧れの的……
わたしなんか1メートル以内に寄ったりとかしちゃったんですからねw
とか書くと殺されそうですね。。。すみませんww

わたしは普段短歌を書かないですし(最近は小説で手一杯)
要するに散文ばかりで韻文を書かないです
言葉は意味を伝える「道具」であって、
それ以上でもそれ以下でもない感じです(普段は)
だからだと思うのですが、短歌講座を聞いていると、なんだか脳みそが洗われるような爽快感が。
現代詩とはまた違うこの感じ
自分じゃ全く書かないがために、むしろすっごく純粋に響いてくるというか、
上手く言えませんけど。
とても楽しかったです。

それにしても穂村先生はとってもセクシー。。。。
見た目も大変好みなのですけど(暗闇で襲いたい。。。。)
何しろ、声もいいのですよ、ヤバいですwwww
大きくなくでも極端に小さくはなく
響くわけでも響かないわけでもなく
しかし空間はちゃんと通りわかりやすい。
なんかこう イメージはお釈迦様の説教のような
ヤバい。。。。思い出したら痺れてきた
あの声で命令されたらたぶん何でもしちゃいますね!
そんな感じです^^

きっとああいう人が本当の「悪い男」なんだろうなぁ……(遠い目

ところで余談ですが、イケメンはイケメンを呼ぶ
ジャニーズにはジャニーズしかいない、ということなのか、
短歌講座!なぜかイケメン率高いですw
前から思ってたんですが、その傾向ないですか???
わたしは「清楚系男子」押しですが
清楚系多かったわー
ところで清楚の対義語って「濃艶」なんですって
知らんかった^^「ビッチ」ではないのですねwww
あと、「ガリガリに痩せたジジイ」も好みなんですが、略して「ガリガリのジジイ」も業界に多そうな気が。。。
やはりいつかは短歌の世界に踏み込んで、タイプの男子に囲まれる余生を過ごしたい^^
でもそんなやましいことを考えている人間は短歌書けないかもww

集まった作品も短歌講座ならではで大変面白く、有意義なひとときでした^^


11/27のツイートまとめ

tiarnu

原稿しなきゃないのに超眠いどうしたら。。。
11-27 20:14

買い物。。。
11-27 16:37

終わったー。ココア飲も。
11-27 16:16

1時からレッスーン。ふううう
11-27 12:43

自分も短歌書きたいとたまに思うけどさっぱり浮かばないのだよねーでも短歌講座はすごく好きかもと思った。脳が洗われる感じというか。
11-27 10:46

ところで昨夜はいろいろと楽しかったです!みんなすごいなー面白いなー。どこからそう思ったかわかんないけど自分もがんばろうと思いました^^
11-27 10:37

しかし午後からレッスンなのでもう起きねば。。。
11-27 10:35

おはよー。昨夜は遅かったので眠いです。
11-27 10:34

11/26のツイートまとめ

tiarnu

ふふ https://t.co/s7VTe0EFhb
11-26 15:57

犬めくりとか猫めくりとかならいいけどさぁ……ちなみにわたしは日めくり系自分じゃ絶対買いません。理由はめくらないで何か月も経っちゃうからですw
11-26 10:51

ところで全然関係ないけどめっちゃウザい日めくりカレンダーとかありますよね。ああいうの誰が買うんだろ。説教されるのが好きな人?わたしの中ではダントツで「彼氏の家にあったら別れる」もののひとつですけど。
11-26 10:49

でもなぁ……威張る男嫌いなんだよなぁ……大富豪って威張りそうでヤなんだよなぁ……
11-26 10:47

そんなわけで豚汁を作成していますw主婦の外出にはつきものの晩飯作りですね。はーあ、女中が50人、下男30人くらいいてみんなでわたしにかしづいてくれればいいのにさ。大富豪の40番目くらいの奥さんになりたい。
11-26 10:46

今日は穂村先生の講座~~ドキドキ(はぁと)
11-26 10:43

11/25のツイートまとめ

tiarnu

そういやエスプリークのアイブロウケースがあっという間に壊れちゃったぞ。仕方ないので昨夜スーパーで「女は黙ってメイベリン」と思いながら購入したです。わりと描きやすいです。
11-25 09:32

それもそうだが来週中に1本上がるんだろーか??なんか間に合ってないよー
11-25 09:13

しかし今日は小説の仕上げをせねば。。。
11-25 09:12

排卵日的だるさ
11-25 09:12

新作「二人の円舞曲~買われた花嫁に笑わない伯爵~」発売されました^^

お知らせです。
夢中文庫プランセさんより、「二人の円舞曲~買われた花嫁と笑わない伯爵~」が発売されました。
いつもと同じく、アマゾンキンドルさんからの配信が早めで、順を追ってほかの書店さんでも発売になりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

今回は……戸惑いつつも頑張りました!
初めてのファンタジー、初めての乙女系で、
プロット作りから作品になるまで、何しろ慣れていないので、手探りと言えば手探り^^
いろんな内容を考えたのですが、まずは王道を書いてみよう!と思って、自分なりに意識して。
書いてみたいと思っていたジャンルなので、難しかったですけど、楽しかったです!
もしよかったらぜひ読んでください^^
にそぶた先生の素敵な表紙と共に、楽しんでいただけたら嬉しいです!
普段は現代ものTLが多いわたしですが、ファンタジーはまた挑戦してみたいな。

そんなわけで、今回は成り上がり伯爵と落ちぶれた公爵令嬢のお話です。
どんなお話かというと、
「没落貴族の娘オレリアは成り上がりのドリュケール伯爵に無理やり嫁がされることに。その晩オレリアはサロンで派手やかなピアノ曲を奏でるが「あのワルツは弾かないの?」と美しい青年に声をかけられる。それは家族しか知らないはずの曲だった……。彼を見るとなぜか懐かしい感情が沸き起こり戸惑うオレリア。思い出そうとしてもオレリアは十七歳のときに高熱で記憶の一部が消えているのだった。(もしかしてその時のことと関係があるの……?)笑顔を失ってしまった青年の秘密とは……? 世間知らずの没落貴族の娘と成り上がりの美青年の間に生まれた愛は過去も未来もすれ違ってしまうのか? 消えてしまった記憶をめぐるラブストーリー……」

の、ような感じです^^
ネタバレではないですが、少しだけ。
話中に出てくる「イヴォンヌのワルツ」のモデルは、ショパンの有名なエピソードをイメージしました^^
曲のイメージは当然、9番のワルツです^^

ショパンのワルツの中でも易しいほうの曲なので、弾いたことがある人も多いかなぁと思います。
切なくてロマンチックでしみじみ素敵な曲だなあと思います。

それでは、新作よろしくお願いします!


11/24のツイートまとめ

tiarnu

女性向け小説、漫画、コラム | クールなイケメンはぽちゃガールを溺愛したい  | 無料 eロマンス https://t.co/fbhTF0LgLK #eロマンスjp
11-24 23:12

考えすぎても、まぁ仕方ない。
11-24 23:07

今日は寒いせいか星がきれいだ
11-24 22:43

ほうじ茶とマカダミアクッキー。 https://t.co/XsQgvEta1r
11-24 20:03

鯛飯ランチ^ ^ https://t.co/vMPP23NFzD
11-24 12:54

仙台も今日明日降るんかな。はぁぁ。めんどい。仙台は山形ほど雪対策してくれないので。。。スノーダンプ買わなきゃー
11-24 10:30

東北の普通の一軒家にはたいてい雨戸がありません。ものが飛んでくることなどほぼないからです。その代り屋根に雪止めがつています。雪は必ず降るからです。実家の親は雪下ろしをしたくない一心で屋根にヒーターを導入しました。
11-24 10:28

が、東北は台風には弱い。「台風」というものをニュースでしか見たことがないレベルの大人が多いため。担当美容師さんがたまたま九州出身の人なんだけど、「先日親が来て家の作りが違うってびっくりしてました。台風のときはどうするんだって」って言ってたし。
11-24 10:26

大変そうだな東京。東京は雪が降るという設定で都市ができていないので仕方ない。これがわたしの故郷山形とかであれば「あ、降ったね」程度のことで高校生も粛々と自転車で学校に行くのだが。
11-24 10:22

まぁたぶん、よほどバカに見えてたんだろーなと思うんだけど、わたしはタイプかタイプじゃないかということはわりと重要視するんですよ。言い訳とか持ち込み方にはほぼこだわりませんが(ムードっていうやつか?)
11-24 10:14