プール当番の当たり年

朝起きたら雨が降っていたので、これはラッキー、プール当番は無しかなーと思っていたらそんなことはなく、
直前になって晴れちゃって....
予定通りお出かけしました^^
今年はプール当番の当たり年で、どういう意味かっていうと、仙台って結構夏場の雨が多いので、プールが中止になることが多いのですよね。
去年はやったけど、おととしもその前も、確かその前も、3年くらい連続で当番日に雨が降って中止になった経緯があり、
今年も上の子と下の子の分2回入れていたけど、一度くらいは中止になるんじゃないのと漠然と思ったりしてたんですよね。
でもそんなことはなくて、2回とも開催されました。

まぁでも去年は確か「ヒマだなー。座ってるだけなんてだるいし暑いし」って思った記憶があるんですが、
今年はそんなことはなくって、いやー、盛り上がりました(ある意味)

今日は参加者がけっこう多めで、最初はみんな楽しそうに遊んでいたのですが、そのうち泣き声が聞こえてきて....
「○○君が蹴った」
訴えに来たのは1年生。みるとちょっとお腹にみみずばれができていたので、これはよくないと思って、
「ちょっとーお、○○くん、こっち来てー」
この○○くんは3年生。わたしに呼ばれるとブスっとした顔で、近くの子に八つ当たりを始め、挙句の果てには、
「うるせえ!最初にあのハゲがちょっかい出してきたんだよ!」
とかなんとか言い出したので、
「いいから早く来なさい」
ちょっと厳しく言うと、
「ハゲがわりーんだよっ、ハゲが!」
と、全く反省の色がありません☆ちなみに1年生の子はハゲていません☆ってゆーか、ハゲって☆
こりゃダメだと思いつつ、「いいから来なさいねー」と呼びつけ、向い合せて、
「ほらー蹴ったとこ腫れてるでしょー、足の爪が当たったんだよ?こうなったら痛いでしょー、ちゃんとごめんなさいしないとダメだよっ」
「ふんっ、ごめんなさいっ」

と、いったんは収まったのですが....
その後まもなく今度は女の子とビート盤で殴り合いが始まり(これがなかなか懲りないやつなんだ)、
「ハゲ!クソブス!!」
「うるさいっ、バカ!バカ!クソバカ!!」
まー今度は女の子のほうも同学年だし負けてなくて、その子は逆にバンバン叩かれてましたが、仲裁に入らないと収まりそうになく、
「やめなさーい、二人ともあがってっ」
「やだよーこのクソブスがうるっせえからだよっ」
「女の子にクソブスとか言わないの」
「じゃあハゲ!」
うーん、君のボキャブラリーはなかなか貧困であるよ、ハゲとクソブスしかないのかねと思いつつ、内心なんだ今日はイベント多めだなーと^^
「はいちゃんとあやまりなさいー」とまたごめんなさいさせ(これはお互いに).......さすがにもう大丈夫だろうと思ったのですが、

そのうち今度は5年生の別の子と島(ビート盤のデカいやつをなぜかそう呼ぶ)の取り合いで大もめとなり....
5年生が蹴られて逆上、蹴り返し(プールの中で。これはけっこう危険)、
放っておくわけにいかないので、またまた、
「はいっそこやめなさいっ二人とも上がりなさいっ」と大声出す羽目に。
5年生も息巻いていて、
「こいつがずっと島をつかっててー、他の子に使わせようとしないからー、俺が取り返してみんなに渡してやろうとしたら暴れたんだ」
他の子も、「うん5年生の○○君は悪くないー、1年生が島で遊びたいのに○○くんが貸してくれないのーだから貸せっていtrてくれたのー」
「だーかーらー、蹴られたから蹴り返してやったんだよっ」
あああもうっ、ふううううううと思いつつ、
「そっかぁ、でも蹴ったらダメだよー」
「でもあいつが先に蹴ったんだ」
「そういうことじゃなくてー、あーもうとにかくお互いあやまりなさいー」
「やだよー絶対こいつが悪いんだ、俺悪くないもん!腐ったピーマン、腐ったピーマン!」
「何腐ったピーマンって」
意味がわからなかったので思わず聞くと、そばでギャラリーをしていた女の子が(そのときはすでに誰も泳いでなくて、みんなプールの中からギャラリーしていた)、「あのー帽子が緑だからですよ」
......なるほどそう来たかと思いつつ、
「腐ったピーマンとか言っちゃだめでしょー」
3年生は完全にふて腐れて、手の付けようもなく。

.....とにかく島はいったん取り上げて、ジャンケンで決めさせました。
3年生の子も最初はふくれてたけど、そのうちまたみんなと遊び始めたので良かったです☆

まぁいろいろありますね☆小学生はでも、可愛いですよ^^

そういえばこの間は中学校のプール当番でしたが、そのことは書いてないですよねー
ついでにちょっと書くかな☆
中学校はある意味ゆるくて、ほんと見てるだけーって感じなんですね。
で、見てたんですが、プールで意味なくはしゃぐ中三男子の可愛いこと^^
体はもう大人と同じくらいの大きさなんで、けして「可愛く」はないんですけど、
中学生ってまだまだ仕草が子供なんですよねー
うちには大学生の生徒さんも来ていたりするので、男子大学生とかは見慣れているんですけど、
体つきは一緒でも、なんかほんと....上手く言えないけど仕草が子供なんだなぁ~
と、思いつつ見てました。
女の子は、仕草も目つきもけっこう大人に見えるんだけどね^^
「男子ってバカ~」的な目線で、静かに泳いでました。タイム測ったりとかしながら。

あーでもプール当番も終わったー
今週で夏休みもやっと!!終わりだし、一息つきたいです^^



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なんか眠くない

寝なきゃなんだけど
なんか微妙に眠くない...
昨日やたらと早く寝ちゃったせいでしょうか。

お盆が終わると、いよいよ夏休みも終盤に入ったという感じ。
あと少しだし、がんばらないとー
子供たちの夏休みが終わったら....
なんか、花壇も放りっぱなしだし、少し花とか植えたり、あちこちきれいにして、
リビングの水槽も少しなんとかしたいなあ。
観葉植物とかの世話も超テキトーになってたので、いまいち、ツヤが...
家事というのは掃除や洗濯をしてればいいというわけでもないので、
実際は、それなりに丁寧なお手入れが必要だったり....
どうしても子供たちの夏休み中は、必要なことだけやればOK的な感じになっちゃって、
綻びが増えて、
まーほんと、一か月であちこちボロボロになってきちゃってるんですよね。

あとそうだ、お盆って実家からいろいろもらってきたりするので、
今はじゃがいも!!これがなぜか大量にある...のですが、なんと今日のレッスンで、生徒さんのお母さんにも大量のじゃがいも&かぼちゃをいただいてしまい、大変ありがたいのですが、夏だしー、やっぱり早めに食べないとねって思って、
今日は大量のポテトサラダを作成してしまいました。
でもうちではたぶん、これで3日くらいしかもたないかなぁ
ポテトサラダは作り置きできるので好きです。次はかぼちゃサラダかなぁ....なんか似たような感じだなー
まぁ付け合せだからいいか。
明日の晩ごはんは肉じゃがも作る予定だし
うちはしばらくじゃがいも料理が多いだろうなー
でもたくさんあるんだもんー

お盆ですね

お盆の真っ最中ですね
わたしもあちこちお墓参りに行ったり、けっこう長距離移動が多くてバタバタ過ごしてます。
今日は夕方から行って、お泊りするので、明日帰ってきますが、
昨日からお盆の中休みって感じで家にいます。
なので朝から掃除とかつらつらやりつつ、少々だれていました。
わたしは関係各所にお墓が多すぎる感じで、お盆は大体墓マイラーとか仏壇掃除で過ぎちゃいます。
まー仕方ないですね浮世の義理というやつです。
わたし自身は野垂れ死にじゃないですけど、森に散骨してもらいたいですけどねー
インド人も焼いたら灰はガンジス川に流してもらうんですから、別に骨とか残らなくても良くないですか?
きれいさっぱり自然に還りたいですね
山育ちなのでやっぱり山とか森がいいな。海は、なじみがないからあまり気が進まないけど。
別に覚えててもらう必要もないんだけど、誰かわたしの身近な人が生きている間は、
「そういえばああいう人いたねー」くらいの感じでたまに思い出してもらえれば十分です。
そのうちふわっとまたどっかに生まれ変わってるかもしれないし。

と、これは個人の感覚なので「そーゆーのはイヤ」っていう意見もきっとたくさんあるんでしょうけど、
わたしはそう思うっていうだけですねえ
そういえばわたしの実家のあたりでは死ぬと山に行くっていうんですよね
おじいちゃんもおばあちゃんもきっと蔵王連峰か、飯豊連峰に登っていったのではないかと思ったりしますが^^
....これらの山は生きていても登れますけど☆わたしは麓の森を歩くだけで充分森林浴って感じ^^
山登りはちょっと苦手なので、大丈夫かなー
とか思ったり^^




(掌編小説)沼の主

  沼の主                
                   乃村寧音(チアーヌ)

  水面に、静かに輪が広がり、女が浮かび上がってきた。
 そしてその女は、青緑色の沼の表面に浮かび、まるで肘をつくかのような格好でこちらを見た。

 時刻は、薄ぼんやりとした昼間で、のんびりと釣り糸を垂らしていた俺は、少々驚きはしたものの、なぜか取り立てて恐怖は感じなかった。
「釣れるかしら?」
女が話しかけてきた。
「ねえ、釣れてる?」
 女の肌の色は、まるで水に透けるくらいに青白く、長く垂らした髪の毛は、一見黒に見えるのだけれど、よく見ると濃い緑色をしていた。
 女が、尋常なこの世のものではないことは、俺だってすぐに気がついたけれど、薄明るい、平和で静かな沼のほとりにいると、俺は女がおかしいことなど、あまり気にならなかった。
「見ればわかるだろ」
 俺は仕方なく、ぶっきらぼうにそう答えた。
 朝からずっと、俺は釣り糸を垂らしているが、魚は一匹も釣れていなかった。
「うふふ。そうみたいね」
女はそう言いながらゆっくりと水面を泳ぎ始めた。
 女は、薄衣のようなものを纏ってはいたが、それは透けていて、ほぼ全裸に近い姿だった。
 均整のとれた体つきに、形よく張りのある乳房、くびれた腰。滑らかな白い肌に細くしまった足首。俺は、ついつい女の体を見つめてしまった。
(足は、あるんだな)
俺は女を眺めながら、どうだっていいことを思った。
(人魚でもないんだ。鱗もついていないようだし)
「人魚なんかじゃないわよ」
まるで俺の気持ちを見透かしたかのように、女が笑いながら言った。
「ほら、足だってあるわよ。こーんなに、立派な足が」
ちゃぷん。
 女はくるりと仰向けになり、まるでシンクロナイズドスイミングでもしてみせるように、片足を水面に高く上げてみせた。そしておどけるように足首を回した。
 俺は完璧にからかわれているようだ。
「でも君は、人間じゃないだろう?」
俺は思い切って尋ねてみた。
 女は首をかしげた。
「そうね。あなたの基準で考えたら、たぶん人間じゃないわね。でも人魚じゃないわよ。幽霊でもないわ」
「じゃあ何だ?」
「そうねえ」
女はじゃぶん、と音を立てて水の中に潜り込み、中で一回転すると、また浮かび上がってきた。
「昔風に言うと、この沼の主、ってところかしら」
「なるほど」
俺は妙に納得した。
「嫌だ。納得しないでよ。なんか、主なんて、そういう言われ方好きじゃないのよね」
「でも、実際、そうなんだろう?」
「あなたが理解しやすいように、昔風にわかりやすく言ってあげただけよ。本当は、そうねえ、沼の精ね。わたしはこの沼の水から生まれた、水の精なの」
「水の精」
そう言われれば、そんな気もした。
「ところで」
女は水面に肘をついたまま言った。
「盲亀の浮木優曇華の花、ここで会ったが百年目、ね。さて、遊びましょうよ」
「百年目?どういうことだ?」
「うふふ。何まじめに取ってるの?そういう気分って事よ。ねえ、遊びましょうよ。どうせ魚なんか釣れないわよ。それに釣ってどうするのよ。キャッチ・アンド・リリースでもするの?くっだらない。そんなこと、おやめなさい。魚たちだっていい迷惑だわ。それよりも」
「それよりも、なんだよ」
女はほんのりと赤い唇の端を上げながら、すうっと水の中へと消え、そしてその次の瞬間に、水辺に椅子を置いて腰掛けていた俺の足に、白い指が絡み付いた。
「うわぁっ」
俺は思わず叫んだ。それはまるで、ブルドーザーにでも巻き込まれたように感じるくらいの、強大な力だった。
 叫び声も虚しく、俺はあっというまに沼の中へと引きずり込まれて行った。

「何、焦ってるのよ」
水の中で、女が笑いながら言う。ゆらゆらと深緑色の髪が揺れている。
「びっくりしないでよ。ほら、大丈夫でしょ」
そういわれて、俺はふと気がついた。俺はしっちゃかめっちゃか手足を動かして、慌てて水面に這い上がろうとばかりしていたけれど、よく考えたら全然苦しくなんかない。
「不思議だな。どうして平気なんだろう?」
「それはね、わたしと一緒だからよ」
女はそう言うと、俺の手を握った。その手は、思いのほか、温かかった。
「さあ、いらっしゃい」
「どこへ?」
「いいから黙ってついて来なさいよ」
女は諭すように言うと、俺の手をしっかりと握ったまま、泳ぎだした。
 水の中で、女は自由自在に動いているのだった。
 水の精なのだから、当然なのかもしれないが。

 俺と女は、奥へ奥へと進んで行った。
 深い深い沼の底へと。
 そして、沼の底は暗いものだと、俺は勝手に思っていたのだけれど、そんなことはなく、辺りはただいつまでも薄ぼんやりと明るいのだった。
「さあ、ついたわ」
女はそう言うと、沼の底にすうっと足を着いた。
 俺も同じように、沼の底に立った。
 ぬる、とした妙に温かい沼底の泥の感触が、俺の足の裏を包んだ。

 俺の目の前には、一軒の家があった。
 赤い瓦屋根に、白い壁。玄関前のポーチはクリーム色のタイル。見たこともないような花が玄関脇に植えられ、風、じゃない、水流に揺れている。見たことはないが、きれいな花だ。が、しかし沼の底に花など咲くのか。造花かもしれない。そう思って見ると、その花々はまるで安い造花のように色鮮やかだった。そして、白い格子のついた可愛らしい出窓には、アーチスタイルのレースのカーテン、そしてやはり花の鉢植え。
(おもちゃのようだな。まるで、リカちゃんハウスかなんかみたいだ)
俺はぼんやりとそう思った。
「さあ、ここよ」
女が得意気に言った。
「何なんだ、ここは」
「わたしのうちよ。素敵でしょ」
「なんだかちょっとメルヘンチックだな」
俺がそういうと、女はちょっと膨れっ面をしてみせた。
「やっぱりね。そういうと思ったわ。でも、まぁいいわ。入って」

 中に入ると、女は無言のまま、廊下の奥へ奥へと進んで行った。
 外から見た時は、そんなに奥行きのある家に見えなかったのに、どこまで行っても、廊下は終わらず、先ははっきりとは見えないのだった。
 そしてしばらく行くと、女はようやく立ち止まり、正面のドアを開けた。

 女について中に入って行くと、そこには大きなベッドがあった。
 部屋の中は安っぽい装飾で満たされ、どこからともなくローションの香りがしてくるのだった。
「早く、いらっしゃい」
女はさっさとそこへ横になると、俺を呼んだ。
 そうして、何のためらいも無く、申し訳程度に纏っていた薄衣を脱いでしまった。
 青白い体は、薄ぼんやりとした蛍光灯のような明かりのなかで、ますます白く見えた。
 何度も洗った後のような、白くて清潔なシーツの上に、ふたりで横たわると、布団がとてもふわふわと柔らかいのがわかった。
「気持ちいいわね」
そう言いながら、女の腕が俺に巻き付いてきた。
 一瞬、海の中で海藻が、ぐるぐると巻き付いて来るような感触がしたけれど、それはそれでいいと思った。巻き取られ、優しく締め付けられるような。
「そうだな」
俺も同意した。
 女は俺の頭を優しくなでながら、まるで子供に言うように、
「いい子ね」
と言った。
 そして、ベッドの上に半身を起こし、ゆっくりと両足を大きく左右に広げ始めた。
 俺も半身を起こし、女を見た。
 女は薄く笑いながら言った。
「さあ、お待ちかね。面白いものを見せてあげるわ。ねえ、見たいでしょ」
俺は黙ったまま女を見ていた。

 女が両足を大きく開くと、そこには真っ赤な空洞があった。入り口は血の色で赤く、奥へ行けば行くほど真っ黒になって行くようだった。
「ねえ、覗いてみて」
女にそう言われ、俺はそこへ顔を近づけた。
 こんなおかしなものを見たのは、初めてだった。
 ぐにょぐにょ、ぐにゃぐにゃとした肉の内部は粘膜で覆われているけれど、その奥がどこまで深いのか、俺には見当もつかなかった。
「そんなんじゃ、よく見えないでしょ。もっと奥まで見るのよ、さあ」
女がそう言いながら、俺の頭をぐいっと押さえ、女の足の間にあった真っ赤な空洞へ、俺の顔を押し付けた。
 その力は、さっき水の中に引きずり込まれた時と同じように、強大な力だった。
 まるで巨大なクレーンの先に取り付けられた鉄骨のように、俺は、女の空洞へとセットされてしまった。
 そして、真っ赤な空洞が、ぴたりと張り付くように、俺の顔に吸い付いてきた。そうしてそれは、俺の顔面を覆い尽くし、俺の顔についているすべての穴を塞ぐように浸食して来た。

しかしそれは、とてもやわらかで、優しい感触だった。
「もっとよ、もっと奥まできて」
女は言い、俺の頭をがっしりと両手で掴み、ぐい、と真っ赤な穴の中に、俺の頭をすっぽりと納めてしまった。
「ああ」
俺はつぶやいた。
 首から上が、女の中に入り込み、俺の頭と顔は、ぴったりと生暖かいものに包まれた。

 全く身動きが取れないまま、俺の体から力が抜け、俺は次第にぼんやりとしていった。
 すると、俺の足首を誰かが掴み、ぐいぐいと、空洞の奥へ奥へと、俺を丸ごと入れてしまった。
 俺は全身を、まるで高圧のクッションのようなもので包まれたように感じた。
けれど、絶えず、ぐにゃぐにゃした感触が体中を撫で回してくる。 
 俺はすごく気持ちよかった。
 俺は、その中で、体勢を整えるように、静かに丸くなった。

 

                                          おしまい



ブログ版あとがき

ぼんやりとした「何か」のイメージがあって、それは赤くぱっくりと割れたヴァギナの情景だったりするわかですが、
あ、なんかそういうのが書きたいなーと思ってつらつら書いた掌編です。
でも自分のってなんか怖くて見れない☆

(掌編小説)GOING TO THE MOON


GOING TO THE MOON


乃村寧音(チアーヌ)


京の都、土御門大路を、八つか九つかくらいの男の子が辺りを見回しながら歩いておりました。
 そのうち男の子は、市の雑踏へと入り込みました。
 烏帽子に水干姿の男やら、市女笠に垂布の若い女、上総か常陸あたりから出て来たと思われる田舎者風の従者たち、それに片手の無い物乞いやら傀儡師のたぐい.....もう夕暮れに近くなっても人ごみは続いており、男の子はそれらを眺めながら市を通り過ぎました。
 男の子は童直衣姿で、色白で涼やかな目をしておりました。貴人の子にしか見えないこんな子が、供も連れずに市をうろうろしているなど、ありえないことです。普通ならばすぐに人さらいにあってしまうはずです。
 けれど市の人間たちは誰もその子に目を留めず、男の子も傀儡師の操る人形芝居の前で物珍しげに立ち止まったりなどしながら、ひとりきりで歩いているのでした。
 そのうち男の子は市を出てしまいました。辺りはだんだん暗くなっており、壊れた築土塀の間から犬や牛が出入りしているような廃邸や、いかにも物怪が出そうな、蔦葛に巻かれてしまった門柱の側を通り過ぎた頃、男の子はさすがに疲れてしまったのか溜め息をつきながら立ち止まりました。
「お母さまは、一体どこにいらっしゃるのかな」
 男の子は独り言をいい、そして再び歩き出しました。 
 男の子が次に立ち止まったのは、二条の辺りでした。この辺りの雰囲気はさっきとは全く違っており、立派な築土塀が長々と続いておりました。
 どうやらここは、今をときめく顕官の邸のようでありました。
 夜なので当然のことながら門は閉まっており、門番の侍もおりましたが、男の子はするりと通り抜け、中に入り込んでしまいました。門番は男の子に気がついた様子はありませんでした。良く見ると、男の子の体は透けて見えます。そう、この男の子はこの世のものではないのでした。
 辺りはもう真っ暗になっておりました。けれど、月明かりのおかげでいくらか邸内の様子がわかるのでした。高く聳える木々、前栽の花々、しっとりと繁った苔、澄んだ池に遣水。ここは、贅を尽くして整えられた邸だということがわかりました。男の子はその中を、音ひとつ立てずにどんどん中へと入り込んで行きました。
 男の子は妻戸をいくつも通り過ぎると、細殿に女たちが何人か眠っているところに出くわしました。この邸に勤める女房たちのようでした。男の子は、それらのものには目もくれず、踏み越えるようにしてさらに奥へ入って行くのでした。
 そのあたりで男の子はやっと、立ち止まりました。そこは邸の最奥、けして人目についてはならない女性の居場所でした。
 簾で囲まれた部屋らしきところから、薫物の香りがしてきました。それは貴婦人の香りでした。
 男の子はそうっと、中へ入りました。
 簾の中はさらに屏風と几帳で囲んであり、磨き立てて黒光りしている板敷きの上には低い寝台が置かれ、その上で紅の衣をかぶって、姫君が眠っておりました。
 枕元の髪箱には、つやつやとした豊かな黒髪が傷つかないように丁寧に巻かれてしまわれ、顔は白く、唇薄く、しっとりと切れ長の瞼、なんとも美しい姫君でありました。
 男の子は上気した顔で、姫君の顔を覗き込みました。何かを期待している目で。しかしその目はすぐに曇りました。
「違う、やっぱり違う。ぼくのお母さまじゃない.......」
 姫君は、まだ十三、四の少女に見えました。
 そのとき、眠っていた姫君がパッチリと目を開けました。そうしてすぐに体を起こしました。ほっそりとはしていますが、健康そうな物腰でありました。
「あなた、誰?」
 姫君は男の子の姿を一瞥し、言いました。男の子は驚いたような様子で、姫君を見つめました。
「ねえ、僕が見えるの?」
「見えるわよ。はっきりとね」
「びっくりした。だって今まで誰も、僕のこと見えなかったんだよ」
「そうでしょうね。だってあなたは物怪だもの」
 姫君がそう言うと、男の子はつらそうに目を伏せました。
「わかってるよ。僕だってまさか自分が物怪になるだなんて思ってもみなかったんだ」
 男の子の様子を見て、さすがに哀れに思ったのか、姫君は慰めるように言いました。
「大丈夫よ、あなたは悪い物怪には見えないわ。でもいつまでもこの邸でうろうろしてると、すぐに陰陽師の連中がやってきて、追い出されちゃうわよ。あいつら、物怪と見ればなんだって容赦しないんだから」
「はい。前にも他のお屋敷でそんなこと、された気がします。ぼくは、母君を探しているだけなのですが」
「あなた、お母さまを探しているの」
 それを聞いて、さすがに姫君は男の子を哀れに思ったのか、こう訊ねてくれたのでした。
「それはかわいそうね。よかったら事情を聞かせてくれない?」
 男の子は、久しぶりに誰かと話ができる喜びを全身に漲らせて話をはじめました。
「僕の母君は、僕を産んですぐにみまかられたんです。でも僕はいつも、母君がそばにいることを感じていたのです。だから、ぼくが八つのときに、病にかかり死んでしまうときにも、これで母君にお会いできると思い、まったく怖い思いなどしませんでした。それなのに、いざ死んでみたら、母君はどこにもいなくて」
「ふうん」
「そんなわけで、ぼくはずっと母君を探しているんです」
 男の子は溜め息をつきました。
「どうしてなのでしょうね」
「さあ、よくわからないけど.....そうねえ、もしかしたらわたしも協力できるかもしれないし、手伝ってあげてもいいわよ」
「ありがとうございます!」
 男の子はうれしそうに叫びました。
「じゃあ、ちょっと引っ張って。あんたみたいな物怪が引っ張ってくれたら、わたし、この体から抜けられるから」
 姫君は男の子に手を差し出しました。男の子はちょっと戸惑いながらも、姫君の指先を握り、そうっと引っ張ってみた。すると。にょろり、という感触がして、姫君が二人になりました。
「ほら、抜けられたわ」
 姫君はにっこりと微笑みました。
 微笑んでいる姫君は、ちょっと透けていました。そう、男の子と同じように。そして姫君の透けていない本当の体は、目を閉じて、元の通りに寝台へ横になっているのでした。
「さあ、行きましょう。あなたのお母さまを探しに」
 男の子はうなずき、二人はまるで転がるような早さで邸内を駆け抜け、背丈の何倍もある巨大な門の、ほんの少しの隙間からぐにゃりと滑り出たのでした。
「ああ、外の空気は久しぶりだわ。それに、なんてきれいな月」
 姫君は気持ち良さそうに空を見上げながら伸びをしました。
「ほんとうに良い月だね。まんまるだ」
「わたし、外に出る夜はいつもこんな月が出ているわ。この月があったから、あなたのことも見えたのかしら」
 姫君は独り言のようにつぶやきました。
「本当に、いいの? あなたはこのお屋敷のお姫様でしょう?」
 男の子はちょっと済まなそうに言いました。けれど、口調はうきうきとうれしそうです。そして姫君も負けじとうきうきしているのでした。
「大丈夫よ一晩くらいなら。それにわたしの体はあの暗い部屋でぐっすり眠っているのだもの。何しろ普段は、お庭を見たくても、端近に出るのさえもダメだって女房たちに叱られるのよ。そんなわけだから、こうやってたまに、外に出るのはわたしにとって大事な息抜きなのよ。だから、あなたみたいな可愛い物怪は大好き。わたしね、良くできる陰陽師は、みんな難癖をつけて出入り禁止にしちゃうの。だから今、邸にいるのは、どちらかといえばいまいちなやつらばかり」
「そうか、だからあなたの家は入りやすかったんだ。いつもはね、ああいう立派なお屋敷は入りにくいんだ。隙間が無くってさ。ところで、あなたの父君はどういう方なの?」
「右大臣よ。そして、わたしは四の姫。これでも美しくてかしこいって都じゃ評判....らしいけど、それはお父様が流してるデマだわね。そして嘘っぱちの噂が効を奏して、わたしは来月、主上のところへ入内するのよ」
「別にデマじゃないと思うよ。あなたはとてもきれいだもの。そうか、ふうん、あなたは入内するのか」
 男の子はちょっとまぶしいものを見るような目でお姫様を眺めました。
「それじゃあ、あなたは女御さまになるんだ」
「そういうことね。弘徽殿へ入るの」
「ふうん、今の右大臣さまというのは、ずいぶん勢力のある方なんだね。じゃああなたは皇子さまさえ生めば、皇后間違いなしだ。ぼくの姉様も、入内したんだけど、梨壷でさ。弘徽殿の女御さまとはとても張り合えないって、実家へ帰って来るたび愚痴っていたよ」
「そう。いいことを聞いたわ。あんたの姉さんは、梨壷の女御さまだったのね。で、それ、いつの話?」
 男の子は姫君に訊ねられたことを、立ち止まってしばらく考えていた様子でしたけれど、結局、
「.......わからない」
と小さく答えました。
「ふうん」
 お姫様は小さくうなずき、二人は裸足のままぺたぺたと都の大路を歩いておりました。
 夜になれば、物怪どころか、盗賊も多く跋扈すると言われているので、見たところ誰もおらず、二人だけが白い玉のようにぼんやりと光ながら、行く当てもなくふらりふらりとしているのでした。
 けれど、二人は楽しさのあまり夢中になっておりました。姫君は、ひさしぶりの外の空気に、男の子は、ひさしぶりに誰かと話ができることに。
「ぼくね、物怪になって良かったことが、ひとつだけあるよ。それはこんな風に、外を歩き回れること」
「そうでしょうね。あなただって、まだ体がちゃんとあるときに、そうそうそこらへんをほっつき歩いたりできる身分じゃなかったと思うわ。その直衣だって、なかなか良いものですもの。いつの御代か知らないけど、右大臣か左大臣か.....または案外、宮様の子かもしれないわね。お姉様が梨壷の女御さまだったんだから」
「なんだかもう、そういったことは覚えていないんです。だって、あなたの話を聞いて、はじめて姉が梨壷に入られたことを思い出したんですよ」
「そうなのよねえ、物怪って、みんなあまり自分のこと覚えていないのよ。生きていたときのこと、ちょっとずつ忘れちゃうらしいのよね。困っちゃう。お母様、見つかるといいけど」
 お姫様が溜め息をつきました。
「そういえばさっき、協力してくれるって、言いましたよね。何か、方法があるんですか? ぼくのお母様が見つかるような」
「さあ、よくわからないわ。協力するつもりだけど、あなた何も覚えていないんだもん」
「いいかげんな人だなあ」
 男の子は呆れたように言いましたけれど、怒っているような様子はありませんでした。
「ごめんね。わたし、ちょっと外に出たかっただけかもしれないわ」
「いいですよ、別に。こうやって、誰かと話せれば、それだけでぼくもうれしいですから」
 ふたりがのんびり歩いていると、不意に目の前に、ぬうっと烏天狗が現れました。夜、都の大路をほっつき歩いたりすれば、この世ならぬものに出会うのはよくあることとされています。
 暗闇の中でさらに真っ黒な烏天狗は、修験者の格好をしているものの、顔は烏そのもの。初めて見れば、やはり驚きます。
「うわっ」
 男の子は後ずさりました。
「なんだ、お前ら」
 烏天狗はうさんくさいものを見るような目で二人を眺めました。
「ひとりは物怪になった人間のようだが、もうひとりはそうではないな。それにしても二人とも、ずいぶん良い身なりだ」
 姫君は烏天狗を一瞥し、
「そうよ、わたしの体はまだちゃんとあるわ。あんたには関係ないわ」
 と、きつい口調で言い返しました。
 烏天狗は少々驚いた様子で、
「ありゃりゃ。きれいな顔をして、こりゃまたずいぶん気の強い」
 と、位負けした様子で言いました。
「こ、この方は、右大臣家の四の君で、来月は入内なさるんだぞ」
 男の子も少々怯えながらも、烏天狗に言いました。
「ほう、そうなのか。しかし、そんな深窓の姫君が、またどうしてこんなところをうろうろしているんだ」
 烏天狗の疑問は尤もでありました。
「別に、理由なんかないわ。わたしだってたまには外に出たいのよ。わたしは物怪の力を借りなければ外には出られないし、入内してしまったら、あそこには物怪が入り込むことはほとんどできないから、もうこんな機会も無くなるのよ。放っておいて欲しいわ。それよりも」
 姫君は急に笑顔になり、言いました。
「そうそう。いいところであなたに会ったわ。あのね、この子の母君を探してもらえないかしら」
「へ?」
 烏天狗は、ちょっと戸惑っているような様子でした。
「ちょっかいを出しただけのつもりだったのに、なにやら、面倒なことになっちまったなぁ......」
「わたしにできることだったら、なんでもお礼するわ。ねえ、お願い」
「ま、今夜はいい月夜だしな。変わったお姫様の頼みを聞いてやるくらいいいか。よしわかった、仲間にいろいろと聞いてみるよ。ところで姫君と坊やは、これからどこへ行くつもりだ? お前たちの居場所がわからないと、せっかく母君を捜し出してもどこへ伝えにいったらいいかわからない」
「そうねえ。じゃ、法成寺へ行っているわ」
「そうか。あそこは広いぞ。それなら、阿弥陀如来のところにいてくれ」
 烏天狗はそう言うと、背中にある大きな黒い羽根を広げ、月夜の空へ向かって飛び立って行ってしまいました。
 
 姫君と男の子は、法成寺へと到着しました。
 中に入ると、そこはまるで夢の世界でした。生まれてからこれまで、姫君は数えるほどしか外に出たことがありません。
 噂に高い法成寺には、姫君ははじめて訪れました。
「美しい寺だね」
 男の子も辺りを見回しながらしきりに感心しています。
 二人は、東の五大堂から入り、西の橋を渡り、阿弥陀堂へと入りました。
 それらの建物はみな大変豪奢で美しく、庭の造りも見事でした。
 阿弥陀堂へ入ると、月明かりに照らされ、周りを囲むように置かれている九体の阿弥陀如来像が目に入りました。
 二人はその像ひとつひとつに、手を合わせて拝みました。
「お母さまが見つかりますように」
 男の子がつぶやくと、姫君は隣で、
「この子が、ちゃんと成仏できますように」
 と言いました。
 男の子は、はっとしたように姫君を見ました。
「それ、ぼくのこと?」
「そうよ」
「ぼく、成仏してないの?」
「してないから、物怪なんじゃない。迷ってるのよあなたは」
「そうなのか」
 男の子はしゅんとしてしまいました。
「落ち込むことないわ。きっと大丈夫よ」
 姫君は慰めました。そうして二人は阿弥陀堂の真ん中に座り、烏天狗を待ちました。
 静かな夜です。
 八歳の男の子と、十三歳の姫君は、まるで姉と弟のように、じゃれ合い、ふざけ合いました。
「あなたはほんとうにきれいな姫君だね。あなたが入内したら、主上もさぞかしお喜びだろうな」
「さあ、どうかしらね。主上はもう二十七歳におなりになっていて、東宮時代からの愛人が大勢いらっしゃるのよ。でもご身分の軽い方が多いから、わたしのようなものも召したいのだと思うわ。だから別に、わたしの入内を楽しみになさっているわけではないのよ。それにわたしだって」
 姫君は少し笑いながら、
「別に楽しみにしてるわけじゃないわ。本当はね、寺にでも入って、尼になりたいの。そうしたら、毎日物怪たちと遊んだりできるでしょう。あなたみたいな」
「そんなことを言ってはだめですよ。今上帝の第一の妃に立とうという方が」
 男の子はまるで分別のある大人のように重々しく言い、でもすぐに口調が崩れ、
「.....でも本当はぼくも、そのほうがいいな。あなたみたいな尼君がいてくれたら、どんなに楽しいだろう」
 と言い、にっこりと笑いました。
「わたし、主上がお年上じゃなくて、あなたくらいの年の男の子だったらどんなにいいかと思うわ。そうしたら、きっと入内しても楽しいでしょうね。一緒に絵を見たり、お話したり.....」
 姫君がそう言うと、男の子は少しの間姫君を見つめ、不意に姫君の手を取りました。
「そうですね。そうしたら、どんなに楽しかったでしょう」
「うふふ」
 姫君も笑い、少しの間、二人は寄り添いました。
 すると、急に月明かりが曇りました。見ると、烏天狗が大きな翼を広げ、月の光を遮っているのでした。
「ねえ、暗いわよ」
 姫君は文句を言いました。
「はあ、まったく、こんなに急いで調べて来たっていうのに、ねぎらいの言葉もなしか」
 烏天狗はブツブツ言いながら降りて来ました。
「それで、どう?」
「うん。仲間にいろいろと聞いてみたが、この子の母親はもうとっくに浄土へ行っているらしいよ」
「っていうことは、この子は、母君に会えないの?」
「そうだねえ。おそらく無理だろうね。浄土へ行っちまったら、この世のことは遠い昔さ。会えるかもしれないけど、もうお互いにわかりゃしないよ」
「ああ、お母さまと、もうお会いできないなんて」
 話をきいているうちにたまらなくなったのか、とうとう男の子は泣き始めました。しかし姫君にも、どうしてやることもできないのです。
 でも姫君はほんとうは、そんなことだろうと思っていた部分もあるのでした。
「ねえ、これはもうしょうがないわ。あんたは、母君が無事に浄土へ行かれたことを喜んであげなくては」
「そうですね...それはわかっているのですが、でも、ぼくは、寂しいのです」
 烏天狗はお手上げだと言うように、姫君に目で合図しました。
「困ったわねえ。どうしたら寂しくなくなるかしら」
 姫君がそう言うと、周りを囲んでいる九体の阿弥陀如来像が、不意にゆらりと動きはじめ、二人のほうへ歩み寄って来ました。
「あら」
 姫君は驚き、その様子を眺めました。そうして、大変ありがたいことなので、一心に手を合わせました。
「このお子は、寂しいとな」
「まだお小さいのに、迷っているとは哀れ」
「さあ、お手をこちらへ」
 九体の像は口々に、男の子に向かって語りかけます。
 男の子は泣くのをやめ、しばらく阿弥陀様方を眺めていましたが、烏天狗が横から、
「良かったじゃないか。阿弥陀様に連れてってもらえよ、浄土にさ」
 などとけしかけるので、とうとう手を伸ばしました。
 すると、天からするすると、九本の紐が降りて来て、阿弥陀如来像は満足げに、その紐を束にし、男の子に握らせました。
 姫君はその様子を眺めながら、そっと話しかけました。
「どう、もう寂しくない?」
「うん.....どうしてなのかわからないけれど、さっきよりましになったよ。でも、最後に、あなたにお願いがあるよ。抱きしめてもらえないかな。まるであなたは、わたしの姉君のような、母君のような気がされるから」
 もうお別れのような気がされましたので、姫君のほうも、なんだか急に寂しい気持ちになってしまいました。姫君は男の子をしっかりと抱きしめ、頬と頬をすりあわせました。
「ありがとう。ぼく、もう大丈夫だよ。あなたも、どうか立派なお后さまになってね」
「そうね。あまり気が進まないけど」
「そんなこと、言わずにさ」
「それじゃあね、さようなら」
 最後は、姫君は男の子からあっさりと離れ、送り出しました。
 男の子は下りて来た紐に捕まって、天空へと吸い込まれてゆき、やがて見えなくなってしまいました。
 そしてふと気がつくと、九体の阿弥陀如来像も、すでに何ごとも無かったようにもとの場所へと戻っているのでした。
「さて、お姫様。あんたも帰らないと」
 烏天狗が表情の無い顔で言いました。
 姫君は満足気なため息をつき、烏天狗におぶさりました。
 そうして姫君は烏天狗の背中に乗って、月へ向かってどこまでも昇って行きました。



                                おわり


ブログ版あとがき

この小説は、とにかく平安時代物が書きたい! でもいきなり書くのは難しそうだからまずは習作を書こうと思って、挑戦してみたものです。
わたしは古典が好きで、特に、源氏物語や伊勢物語、更級日記、蜻蛉日記、等々がお気に入りでして、
ほんと読んでいて、気持ちが落ち着くジャンルなんです。
でも、自分で書くのは難しそうだなあというイメージもあり、でも書いてみたくて....
こんな作品に仕上がりました^^
少年少女の恋物語のイメージもありましたが、生々しいものにはしたくなくて、こんな風に書いてしまいました。
平安時代物.....機会があれば、また書いてみたいです。
タイトルが英語なのは、なんでかなあ、なんとなくですね☆
月に行くイメージと、あと、カジュアルな感じにしてみたかったんです。

(掌編小説)メール・フォリア

「メール・フォリア」        

                              乃村寧音 (チアーヌ)





(ずっと、メールの夢ばかり見ていた)






メール


メール大臣


反メール


メール子



にわかには信じがたいことかもしれないが、育児の最中に、自宅の電話線を抜いている主婦は多い。同時に彼女たちは、インターホンのスイッチも切っておく。これはなぜかというと、子供の昼寝の時間帯に大きな信号音が鳴り子供が目を覚ますことを警戒してのことである。だから、子供を持つ主婦同士は、お互いの事情を汲んでいて、昼間にいきなり電話をかけたりはしない。そこで登場するのがメールである。メールは


メール菜


(仮)メール


メールごはん







メール憲法


トーマス・ウェストランド・メール卿


だからそういうことではなく、そのメール何が書いてあったのか、それだけが問題なのである。そのメールの提出をもしも拒むということであれば、極刑もやむえない。まぁ、それもよかろう。アーネットが斧を磨き明日の用意をしているようだ。今夜のうちに良く考え、メールをプリントアウトしたまえ。明日の朝、一番鳥が鳴くまでにメールが用意できなければ、お前は断頭台の露となるだろう。



メール症


メール師


メール漁


非メール


メール伝説


そのメールのために一体何人の人間が苦しんだことか。しかし僕はどうしてもそのメールを手に入れずにはいられない。青白いパソコンの画面に神々しく立ち上がるそのメールは、手に入れたものだけが読むことができ、けしてプリントアウトできない。ダウンロードを重ね、ウィルスにやられ、一体何台のパソコンを無駄にしたことか。このメールが隠されているという噂を聞き、何度糞みたいなゲームをクリアしたことか。しかし答えはそこにはなかった、そのメールは、海外のサイトまで行かずとも、身近な場所に隠れていたのだ。メーテルリンクの青い鳥を覚えているかい?僕は、僕は、なんて無駄なことをしていたのだろう。幸せはこんなに身近にあったのだ。ああ、メールが点滅している、まもなく消えるのだろうか。どうしてなのだろう、涙が止まらない。


メールのお話は、一旦、おしまい。



そして。

また別の話。だよ。
はじまり、はじまり。



1・ メール子

 俄かには信じられないことかもしれないけれど、乳児を育児中の主婦というのは、自宅の電話線を抜いている場合が多い。こどもが昼寝をしている最中に、うるさいコール音が鳴ったりすると、何もかもが台無しになってしまうし、自分のシアワセな昼寝時間も削られてしまうからだ。
 特に、乳児を育児中の主婦は、こどもの夜泣きに付き合ったりもするため、夜に集中して睡眠を取ることができない。だから、昼寝が不可欠になる。そしてそんなときに電話が鳴ったりするのは本当につらいことなのだ。
 だから、乳児を持つ主婦同士は、お互いにそれがわかるので、昼間、無神経に電話を鳴らしたりしない。そこで登場するのがメールだ。

メールはいい。音を消しておけば、昼寝から目を覚ました瞬間に、メールを確かめ、そして再び、昼寝をしているかもしれないママ友にメールを返すことができる。お互いに自由は無いに等しいのだからメールくらいは自由にさせて欲しい。

 けれど。
 育児中にメールばかりしていると太ってしまう。結婚前から考えたら、なんと7キロも太ってしまった! なんていうことは、インターネット上に無数に存在する主婦の情報交換サイトへ行ってみれば別に珍しい話でもなんでもない。だから安心して、みんなどんどん太ってしまう。
  そしてそんなサイトには必ず「ママ友募集中!」の掲示板がある。
「なんだみんな一緒ね」
 主婦はぐずるこどもを横抱きにしながら痛む腰をさすり微笑む。腰が痛いのはこどもが重いせいもあるけれど、おそらく急激に太ったことが原因でもある。
『こんにちは。ところでこどもがもうすぐ1歳になるんですけど、まだおっぱいを飲んでいるんです。どうすれば離乳食に完全移行できるでしょうか? こんなわたしですけどお友達募集中です!メールください』
『おっぱいなんて何歳まで飲んでいてもいいと思います。ぜひおっぱいが萎むまで何年でも飲ませてあげてください。そして新記録更新してください。わたしが知っている最高記録が6歳ですが、どうせなら20歳まで飲ませてあげたらどうでしょう?ところでこどもは男の子ですか?』
『ぜひお友達になりましょう! うちの子は男の子ですよ。わたしは何も楽しいことがありません。しょうがないので離乳食を半日かけて作りましたが、息子がそれを食べようとしません。腹が立ったので、ついつい大声で喚きながらこども用の椅子をぶち壊してしまいました。次は息子を殺しちゃうかも。こんなわたしは一体どうすればいいんでしょうか?』
『そんなの知らねえよ、クソブタ』
『答えにくい質問しちゃってごめんなさい。あっブタって言えば、わたしはこどもを産んでからとても太ってしまったんです。どうしたらいいんでしょうか? 毎日毎日たくさん食べちゃうんです。菓子パン10個は軽いです。今日は菓子パンを7個食べたあとお出かけして、スナック菓子と加糖のアイスコーヒー1・5リットル、それからキットカットお徳用を一袋買ってきちゃいました。キットカットって何でこんなにおいしんでしょうね? 今もバリバリ食べていますよ。でもね、こどもの離乳食は一生懸命作っていますよ。農薬を一切使わないっていう産地直送の野菜を毎月届けてもらっているんです。母親なら当たり前ですよね! ところで突然死ってミルクの子が多いってほんとですか? あはは、でもうちの子は完全母乳ですからね。ところで離乳食ってすごくまずくありませんか? だからわたしは毎日キットカットと菓子パン食べてるの~でもそうしたらもう太りすぎちゃって(笑)でも、最近、
最強の方法見つけました! えへへ、夜になったらウィスキーをボトル半分くらい飲んじゃうの。そうするとわたしの場合気持ち悪くなって大量に吐けるんです~。だから今はそんなにブタじゃないですよ、だって出産して20キロ太ったけどそこから13キロ痩せたんですもの』
『そんなこと知らねえっつーの。だからなんだって言うんだよ、クソブタ。あっそうだ、ほら、とても楽しい写真を添付してやるよ、自分の重みで死んだ世界一のデブだってさ。どうせならこれくらいまで太ったらどうなんだ。お前は何もかもが中途半端なんだ、死ぬまで中途半端なデブで生きるがいいよ、このクソメスブタめ。そんなことじゃどうせちゃんとした幼児虐待ママにもなれねえんだろうな』
『ありがとうございます。うわー、とっても楽しい写真ですね。ところで、わたし毎日寂しいんです。このあいだ夫の携帯電話にキャバクラ嬢からメールが入っていました。今度ふたりでディズニーランドへ行くんですって。腹も立つんですけど、それ以上にうらやましくって死にそうです。わたし、毎日毎日寂しいんです。一体どうしたらいいんでしょうか』
『バカかお前は? だったらお前もホストクラブにでも行って、ブサイクで売れてないホストの顔でも札束でひっぱたいて、ちやほやしてもらえ。ついでにセックスもしてもらったらどうだ? どうせ欲求不満なんだろう。お前みたいなデブでも、金さえ出せばセックスくらいしてもらえるだろ。お前はクソブタな上に欲求不満なのか、本当に最低な女だな』
『ホストクラブに行くお金なんかありません。それにセックスがしたいわけでもありません。わたしは寂しいんです。それだけなんです。本当はわたしもディズニーランドに行きたいんです。わたしはどうしたらいいんでしょうか?』
『死ねば』
『わー、メールと一緒にすごいお写真を添付していただいてありがとうございます。なんだかこのお写真を見ていたら、勇気が出てきました! ずいぶん血みどろでわかりにくいんですけど、この女の人の股間からにょっきりと出てるのは埋め込んだ首ですか? どうしたらこんなことになっちゃったんでしょうねえ(笑)わたし、これからもがんばります! ところで、今日はなんとベビーベッドを叩き壊しちゃいました。だって離乳食を食べてくれないんですもの。あと、最近すごく思うのは、一ヶ月に一度でいいから、一晩中起こされずに朝まで眠っていたいってことです。こどもの夜泣きって、いつまで続くんですか? あとそれから、どうしたらダイエットできるのかなあ。またメールくださいね、待ってます!』


2・ トーマス・ウエストランド・メール卿


「だからそういうことではなく、そのメール何が書いてあったのか、それだけが問題なのである。そのメールの提出をもしも拒むということであれば、極刑もやむえない。まぁ、それもよかろう。アーネットが斧を磨き明日の用意をしているようだ。今夜のうちに良く考え、メールをプリントアウトしたまえ。明日の朝、一番鳥が鳴くまでにメールが用意できなければ、お前は断頭台の露となるだろう」
 トーマス・ウエストランド・メール卿。
 青白い顔に、緑の目。おまけにその緑の目は真横についていやがる。
 トーマス・ウエストランド・メール卿は、口の端に笑みを浮かべると、牢獄を出て行った。
 扉が閉ざされると、辺りは暗闇となり、何も見えなくなった。地面も天井も、何もかも見えない。
 真の暗闇だった。
 死というのは、無が永遠に続くことだ。
 俺は総毛立った。
「待ってくれ、誰か俺の話を聞いてくれ。俺は死にたくない。少なくとも今、死にたくないんだ。メール? メールがどうしたって言うんだ。今度の日曜日、俺は六本木『ヘブン』のナンバー3、23歳の結衣ちゃんとディズニーランドへ行くんだ。その晩のホテルだってもう取ってある。俺はこの牢獄を出て、必ず結衣ちゃんとディズニーランドへ行ってみせる。俺はこのまま死にたくない。死にたくない」

「めえええええええええる」
 なんだ、あいつ羊蹄目だったのかよ。


3・ メールランド

 俺は今、生きている。
 彼女の小さな手を握りながら、俺は日本でも浦安でもない場所で、大声で叫びだしたいほどの気分だった。結衣ちゃんはかわいい。信じられないほど。そしてウェストが細い。出るところは出ていて、引っ込むべきところは引っ込んでいる。これが女ってもんだろう。
 23歳の結衣ちゃんは、六本木のキャバクラ「ヘブン」のナンバー3。ナンバー1じゃないところがいいよな。それほどガツガツ営業なんかかけてこない。完璧な美貌で、肌の色は抜けるように白い。足首なんか折れそうなくらい細いのに、太ももはほんのちょっとムッチリしていて、大人の成熟も感じられる。話だって面白い。「ヘブン」にいる間は、俺は本当に天国にいるような気分で、時のたつのを忘れてしまう。
  一番最初は、取引先の担当者に連れられていって、そこで結衣ちゃんと出会った。もともとそれほどキャバクラ通いなんてする柄じゃなかったのに、俺は結衣ちゃんに出会って、「運命の女」は本当にいるんだと確信できた。もうこんなことは、この先一生ないだろうと俺は思った。
 疲れた俺を励まそうと、やさしく微笑む結衣ちゃん。ちょっとハスキーな甘い声で、俺の話に興味深げに相槌を打つ結衣ちゃん。
 結衣ちゃんはキャバクラで働き始めて、まだ半年しか経っていないのだという。初々しい笑顔が、たまらない。
 初めて俺が、店でこっそりと手を握ったときの、結衣ちゃんのあの恥ずかしそうな笑顔・・・・俺は正に天にも昇る気持ちで、結衣ちゃんに店外デートを申し込んだのだった。

 それにくらべてあいつはなんだ?
 あのみっともない太りようは。
 俺はもともと、あんな女と結婚したくなんかなかったんだ。それなのにずうずうしく妊娠なんかしやがって。あいつに手を出した時、おれはどうかしてたんだ。ただ、溜まっていただけなんだ。
でも結衣ちゃんは違う。結衣ちゃんに対する気持ちは違う。
 俺は結衣ちゃんが欲しい。心の底から。
  もう夕暮れが近づいている。なんてきれいなんだろう。こんなきれいな夕暮れを見るのは、なんて久しぶりなんだろう。
恋なんて、俺にはもう訪れないのだと思っていた。いや、こんな思いはむしろ、生まれてはじめてかもしれない。
 地方都市とは名ばかりの田舎で生まれ、秀才の名を欲しいままにした俺。
 でも所詮田舎の秀才は東京の大学へ来ればただの人だ。
 遊び場も知らないし、車も持ってないし、狭いアパート暮らしで、バイトしてもいつも金が足りなくて。
 だからやっと大学を卒業して、名の通った商社に入れたときはうれしかった。
 都内の一等地にある社宅に入ることもできたし、これでやっと金回りも少しは良くなるだろうと思った矢先に。
 俺はヘンな派遣のブスに手を出してしまい、妊娠させ、結婚するはめになってしまった。。
 俺って本当にバカとしかいいようがないな。
 離婚したいけど、こどもが可哀想な気もする。こんな俺にとっても、自分の子はかわいいと感じる。
 これが俺の小さいところか。
 こどものためにも、きっと離婚はできないんだろうな、俺は。
ああでも結衣ちゃんはかわいいなあ。今は何も考えたくない。
 どこでキスしようか。今夜は一晩中愛し合いたい。

4・メール豚

『欲求不満のクソブタです。めちゃくちゃにしてもらいたいです。誰かメールください』
『初めまして可愛いクソブタちゃん、どんな風にいじめられたいのか言ってごらん』
『妊娠したいんです。中でたっぷり出してください。もっともっと醜いブタになりたいの』
『そうか、俺でいいならいつでも。どこでしてあげようか』
『あなたは優しい人ですね。ぜひお願いします。たくさんいじめてください。住所を教えます。東京都杉並区○○○・・・・・・・』
『そこへ行けばいいの』
『はい。来てください。お願いします。待ってます』


5・メール師


 絶対イタズラだろうな、とは思ったものの、それほど家から遠くなかったこともあって、俺はついつい車で杉並に向かってしまった。いくら日曜日で仕事が休みだからって、俺もヒマだなあ。 
 で、着いたところは何の変哲も無い普通のマンションだった。ひと昔前に流行った茶色いタイル張り、築15年というところか。
 さてと。4階だな。
 あったあった、407号室。 表札を見る。高田。最近は表札なんか出してない家も多いけどね。分譲なのかな。まぁまぁしっかりした作りのマンションだからな。
 結構、中も広そうだ。まぁでも3LDKとか、そんなもんだろうな。ファミリータイプってやつか。
 お。ドアの前にどう見ても男物の自転車が置いてある。
  やっぱりイタズラか......。
 まぁでも、子持ちだけどヒマをもてあました主婦っていう可能性も捨てがたいな。
  中には誰かいる様子だろうか。
廊下に面した、格子つきの窓を覗き込む。
 その瞬間、中からドスの効いた低い声が聞こえてきた。
「なんだよ、おっさん」
そして、いきなり、カーテンがばさっと開けられた。
(ヤバい)
 俺は焦った。
「あ、すみません・・・えーとこちらは・・・佐藤さんではないですよね・・・」
俺は必死にごまかそうとして適当なことを言った。咄嗟なのでついびくびくしてしまった。
「はぁ? 佐藤? 違いますけど。高田って表札、出てるでしょ。どうだっていいけど人の家を覗き込むのはやめてもらえないっすかね。黙ってりゃさっきからさぁ。気が散るんだよ」
カーテンが開けられたので、ついつい中を見てしまう。ドスの効いた声だったので一瞬ひるんだが、良く見るとそうそう悪くもなさそうな、ごく普通の、高校生くらいの少年だ。
 言葉遣いがよくないが、この年齢じゃこんなもんだろう。
 てっきり女でも連れ込んでいて機嫌が悪いのかと思いきや、机の上にはパソコンをはじめ、参考書やノートが広げられている。 どうも勉強中だったようだ。
「いや、ほんとすみません」
平身低頭で謝りながら、俺はふと、この少年には話をしても良いような気がした。どうせ暇に任せてここまで来たんだし、暇つぶしがてら、この少年にここに来た経緯を語ってみようか。俺は物好きにも、そんな風に思った。
「佐藤なんて、この階にはいないよ」
少年はぶっきらぼうに言い捨てる。でも、実はそれほど怒っているわけではなさそうだ。少年も家の中に一人きりのようだし、案外ヒマなのではないだろうか。
「あ、そうなんですか。ええと......。あ、今、時間はあるかな?」
「なんだよ。おっさん押し売りかなんかなの? 俺、金持ってないし未成年っすよ」
「違うんだ。実は・・・」
 俺は出会い系サイトのメールでここの住所を知ったことを少年に話した。少年は憮然とした様子で話を聞いていた。
 けれど、不思議なことに、それほど驚いた様子はなかった。
「・・・ってことなんだ。何か心当たりはないかな。いや、別にいいんだけど、あんな風にああいう場所へ住所がさらされるって、あんまりいいことじゃないだろうと思ってさ」
 少年は無表情で聞いていたけれど、話を聞き終わると口を開いた。
「スケベ心丸出しでやってきたおっさんに言われたくもないけどな。ふーん、出会い系ねえ。そのパターンは初めてだな。それ、相手はほんとに女?」
「メールだからわからないけどね。でも女だと思うな。なんとなく。不思議なんだけど、ネカマって感じはしなかった。俺、結構そのあたりの勘はいいんだ」
「ふーん。どうだっていいけど、おっさん出会い系にハマりすぎてんじゃない?」
「そんなことはほうっておいてくれよ。.......で、つかぬ事を聞くけど、ここ、賃貸? いや、もしかして、前の住人が、ってこともあるかなって」
「いや、分譲です。6年前に、かあちゃんが買ったもんです。中古だったと思うんだけど、もう6年もいるし、前の住人のことでなんかあったことはないですけどね」
「へえ、お母さんが?」
「俺の進学のために、東京に家があったほうがいいって。かあちゃんは出稼ぎに出たりで忙しかったんで、俺はここで中学のときからほとんど一人暮らししてるんですけどね」
「お父さんはいないの?」
「そういうのはいないです。生まれたときから」
 少年は屈託ない様子でそういった。
「そうか、君のお母さんは苦労してるんだなあ。出稼ぎっていうのも今時なんだか珍しいというか」
「なんかよく知らないっすけど、水商売みたいですよ。同じ店にずっとはいられないってことで全国を転々としているみたいですけど。遠くに行くこともあるけど、今は東京の店にいるみたいです。だから今はかあちゃんはここへ帰ってきてますよ。ま、苦労かけてるのは本当にそうだと思うんで、大学はなんとか国立に入りたいんですけどね」
「ふうん。偉いね、なんだか......」
「そうっすか? ま、そういうことなんでおっさん、もう帰ってくださいよ。俺は勉強しなくちゃなんないから」
「そうだね、帰るとするよ。日曜に勉強なんて君も大変だね。邪魔して悪かった」
「ははっ、ほんとそうですよ。うちのかあちゃんは、今日は仕事でディズニーランドに行ってるらしいですけど」
「へえっ、仕事でディズニーランド? そりゃまた。そういえば水商売って言ってたけど......。最近の客ってかなりの年でもそういうところに行きたがるのかなあ」
「かなりの年? ま、客は20代後半からじじいまで幅広いみたいですけど。今日のやつは30代じゃないかな。そんなこと言ってたし。そうそう、そういうやつらってたまに、わざわざ調べてここまで来ることがあるんですよ。興信所かなんか使うんですかね。俺を見て帰っちゃうヤツがほとんどだけど。まぁでも、俺のことまさか息子だとは思っていないみたいですけどね。なんだ男がいたのか、とか言って。そのあとは、かあちゃんが何かいろんな手を使って、二度とここへ来ないように細工するみたいだな。だからおっさんも、最初はその口かと思った」
「......は? ちなみにお母さんっていくつ?」
「今年30ですね。でも、店では23って言ってるらしいけど。まぁでも全身整形で、相当きれいっすよ」
「は? 30歳?で、23? え? 君は高校生なんじゃないの?」
「あはは。混乱しちゃいました? 俺、かあちゃんが14の時の子です。で、俺、かあちゃんが18になるまで施設で育ったんですよ。なんでもかあちゃんは少年院だか精神病院だかに入っていたらしくて。なんでも、強姦された仕返しに、その相手を殺しちゃったらしいんですよ。たぶんその強姦された相手っていうのが俺の父親なんじゃないかなあ。でも、産んでくれたんですよね、かあちゃん、俺のこと。で、俺が4歳の時に18歳のかあちゃんが迎えに来てくれて・・・・。なんだろ、俺もヒマなのかなあ、なんでおっさんにこんなに色々話してるんでしょうかね?」
「まぁでも俺、話しやすいってよく言われるよ。人徳かな? まぁでもびっくりしたよ......。すごい話だなあ」
「あのさ、ひとつ、当ててみせようか」
「なんだよ、いきなり」
「おっさん、教師でしょ。それも、そうだなあ、小学校かな」
「..........もしそうだったら、それがどうかしたのか?」
「別に。ただ、そう思っただけ。俺、割と勘がいいんだ。それに、俺も教師になろうと思っているからさ」
「そうなのか。がんばれよ。あ、あとさ、言っとくけど、俺は出会い系は大好きだけど、ロリコンじゃないんだ。成熟しまくった年増が大好きなんだ。お前、若い女が好きなら小学校はやめといたほうがいいぞ。最近の6年生はヤバいからな」
「バカじゃねえの、俺はおっさんみたいな変態じゃねえよ。ははっ、おっさん、どうだっていいけどPTAで問題起こすなよ?  何年後かわからないけど、そのうち職場で会おうぜ」


6・メールパレード


「きれいね」
 夜のパレードは刹那的で、流れていく光は恋に似ている。
 なんてエセ詩人な語りをしたくなるくらい、俺はロマンチックな気分に酔い痴れていた。
「君のほうがきれいだよ」
俺ってこんなセリフが言える人間だっけ? 地方都市の郊外で育った平凡な公務員の息子がさ。
 下克上、そして身分差別を廃するのはすべて恋の力だ。なんてウソばっかり。差別する心っていうのはいくら恋をしてもなくなんないもんだよな。ま、そんなことは、今はいいや。棚上げ。
 気分は盛り上がりまくり。人間は恋心をなくしたらもう死んじゃったようなもんだよ。
 違うか? 股間も破裂しそうだぜベイビー。こんなにやりたいのは高校生で溜まりまくってた時以来じゃないか?  
  俺は結衣ちゃんの腰に手を回し、顔を寄せる。キスまであと30秒。
 そのときだ。
 ブルンブルンブルン
 俺の胸ポケットで携帯が震えだした。そしてすぐに収まった。メールだ。 いいさこんなもの無視しよう。
 そう思って俺はさらに結衣ちゃんの腰に回した手に力を込めた。そして少し引き寄せる。結衣ちゃんのプルプルの唇が俺を誘う。ああもう、食いつきたい。
 するとまた。
 ブルンブルンブルン 
またメールだ。なんだってんだよ畜生。
  無視だ無視だ。
しかし。
ブルンブルンブルン
ブルンブルンブルン
携帯は何度も震え続けた。
なんだ? なんだよ? 何かあったのか?
さすがに不安になった俺は、右手を結衣ちゃんの腰に手を回したまま、左手で携帯の画面を見た。
メールが立て続けに5件入っていた。すべて、妻からのものだった。

『さようなら』
『さようなら』
『さようなら』
『さようなら』
『さようなら』

 俺が顔をしかめてメールをチェックしていると、頭上から、ポツッ、と水滴が落ちてきた。
「あ。雨」
 結衣ちゃんがつぶやく。
「行こう」
 俺は携帯をポケットに入れ、結衣ちゃんの手を握って走り出す。
 こんなメールなんかに、かまっている暇はない。

 お土産ショップの店先で雨宿りをする。これもまたオツなもんだ。今日は雨が降るって、天気予報は言ってたんだ。よくこれまで天気が持ったもんだよ。
雨に煙る石畳。浦安のはずなのに、なぜかヨーロッパな雰囲気。偽物? もちろんそんなことわかっているさ? でも、そういうことじゃないんだ。夢の国なんだからさ。
 雨脚が急に強くなってきた。参った、これじゃあしばらく動けないな。

 ところで、なんなんだ、あのメール。ふざけやがって。あの能無しのデブに一体何が出来るって言うんだ。あいつは家の中を這い蹲って便所掃除でもしていりゃあいいんだ。
「ねえ、便器の横におしっこ飛ばさないで。いくら掃除しても、匂いが染みちゃうし」
 トイレの床を拭きながら、豚が言う。膨れっ面で豚がしゃべればしゃべるほど、俺は耳を塞ぎたくなる。
 『はぁ? バカじゃねえの? 豚は便所掃除が仕事だろ?』
 何度も言ってやりたかったセリフ。
 俺は優しいから、黙っててやったんだよ。もう少しで足蹴にしたくなるところを我慢してさ。
 
「ゲリラ豪雨かな。最近多いね」
土砂降りの雨を見て、結衣ちゃんがつぶやく。 俺は結衣ちゃんのカンペキに整った横顔を見て、蕩けそうになっていた。
 どうして、こんなにきれいなんだろう?
そのとき。
 俺の目の端に、今一番見たくない、醜いものが入り込んできた。
信じがたい思いで、俺はそれを見た。
俺を射る様に見つめる視線。どしゃぶりの遊園地。その中に立つ不気味な親子連れ。
ぶよぶよと太ったみっともないデブが、抱っこ紐で赤ん坊を抱き、滝のような雨に打たれながら傘もささずに雨の中に立ち尽くしている。
妻だ。
 俺はさすがに動揺した。
「なんだ、お前、何しに来たんだよ」
「ずいぶん、探したのよ。広いんですもの、ここ」
「だから、何しに来たんだよ」
「わたしもここへ来たかったの。遊びたかったの。それだけよ。でも、生憎、雨が降っちゃったね」
妻は静かに言った。
 太った体に、安っぽい服が張り付き、余計に醜くなっている。子供を庇うように抱いているけれど、この雨じゃあまり意味はない。でも不思議と、赤ん坊は雨があたることを喜んでいるようで、笑っている。
「わたし、今日はここで遊んで行く。荷物も、家から運び出したし。今夜は、ここに泊まるの。だから、あとはもう、メールでね」
 まるでバケツをひっくり返したような雨が降る中、妻は俺に背を向けると、とぼとぼと歩き去っていった。
そして、俺が呆然としているうちに、いつの間にか結衣ちゃんも、俺の側からいなくなっていた。



エピローグ 「雨の夜、園庭で」


『梅雨に入りましたね!
洗濯物が乾きにくくて大変ですけど、うちの子は、なぜか雨の夜に園庭で遊ぶのが好きなんですよ!
わたしの仕事は残業が多くて、保育園にお迎えに行くのがついつい遅くなりがちで、かわいそうなんです。でも、そんなときは、夜の園庭で滑り台をしたり、ブランコをしたりするとご子供の機嫌が良くなるんですが、特に雨が降っていると、うちの子は大喜びで。傘なんかささないで、二人で雨の中びしょびしょになりながら遊ぶんです。
大雨の時なんか、わたしまで楽しくてすっきりしちゃいます!
雨の中で遊ぶの、すごくオススメです! 一度やってみるといいですよ!
ところでわたしは、以前はすごく太っていて、夫の浮気に悩んでいて、今は息子と二人で暮らしてとても幸せです。思い切って離婚して良かった! こんなわたしですけど、保育園のこどもがいるシングルママさんメールくださ~い! ぜひいろいろと情報交換しましょう!』

                                                      おわり




ブログ版あとがき

この短いちょっと変な形式の小説は、最初に詩があって、そこから書きました。
最初詩を書いたんですが、なんかむずむずとした「書き足りない感」があって、
あとは本能のままに、一気書きした記憶があります。

ただ、これは読む人に伝わるのかどうか、
そのへんは自分でも、何も考えませんでした。
ただただ、書きたいように書いただけです。

「なんだこれ!」という感じかもしれないですが、
こういうのもあるということで....
読んでいただけるとうれしいです。




ちょっとバテ気味

だめーなんかくたびれちゃって何もできない。
いよいよ夏休み疲れが出てきたかなぁ
でも明日は高校の演奏会のお手伝い...
久しぶりの友達に会えるのは楽しみだけど、
なんだろうこのくたびれ感。
たぶん...
夏休みってイレギュラーが多いせいじゃないかなぁ
しかも自分じゃなくて人の用事だから、よけいに混乱しちゃって、
あー今日は何、今日は何、でよくわからなくなっちゃう。

...ま、でもたぶんこれはたぶんわたしの脳の容量が少ないからかもしれず
普通は平気なのかも.....

それにしてもなんだろーこの疲れ。
とりあえずマッサージとか行きたいけど、時間もないし、
サロンパスでも貼って寝るしかないかなぁ
ふううう

でも明日からお盆週間。
実家のお寺では明日が「お迎えの日」なので、母に高校の用事のあと来て火を炊けと言われているので、
夜に盆菓子とか持って寄って、お墓行って....でも明日中に仙台に帰って来るけど、
週の後半にたぶんもういっぺん行ってお墓参り&仏壇掃除してきます。

お盆のあいだはレッスンはお休みするのですが、あちこち移動が多いのでお休みという感じじゃないかな
温泉入ったりくらいはしたいなー