「0距離からの初恋模様」番外編「沙穂ちゃんのクリスマス」

前書き

去年もクリスマス企画ということで、この時期に商業作品の番外編を書いたのですが、今年も書いてみました。
夢中文庫さんから発売されている「O距離からの初恋模様」に出てくる脇役、前島沙穂ちゃんと山本さんのクリスマス模様です。
最後にちょこっと主人公二人のクリスマスも添えて……
楽しんでいただけたらいいな^^
内容ですが、本編を読んでいただいていないとわかりにくい箇所もあるかと思うのですが、雰囲気だけは伝わるかな?
主人公の二人、真凛と伊織に関しては、本当にちょっとだけって感じです。本編ではかなりエロい二人でしたが、番外編ではほのぼのです^^
中田恵先生の超可愛いイラストつきです!豪華!
それでは始めます。お楽しみください☆






『0距離からの初恋模様」番外編「沙穂ちゃんのクリスマス』



「まさか、イブの夜に沙穂ちゃんが空いてるとは思わなかったよ」
「山本さんだってそうじゃない。案外寂しい生活してるんですね、チャラ男のくせに」
「全く。そういう憎まれ口ばかり叩いてると、本当に襲うぞ?」
「ふん。山本さんにその勇気があるならね!」
 山本の運転するアルファに乗り込むとすぐに皮肉の応酬になってしまった。でもこれはいつもの感じ。わたしと山本はずーっとこんな感じだ。物心ついた頃から。
 世田谷の自宅まで迎えに来てくれた山本は、母ににこやかに挨拶していた。幼いころからの、家族ぐるみの付き合いなので。
 どういう繋がりかというと、父同士が同じ会社で、今の家に移るまで同じ社宅に住んでいたのだ。ファミリータイプの社宅には子供のいる家庭が多く入居していたため、よくキャンプや山登りなどにみんなで出かけたものだ。
「可愛いね。いつもだけど」
「ほんと、口が上手いですよね」
 言い返しながらも、褒められればちょっとうれしくなってしまう。元はといえば、5歳年上の山本は憧れのお兄さんだった。
 今日は、大人の雰囲気を出そうと思って少しセクシーなニットワンピを着てきたのだ。メイクだってちゃんと決めてきた。
(負けないんだから)
 つい、そんな風に思ってしまうのは、相手に飲み込まれてしまわないように用心しているのかもしれない。
「そういえばあの子、元気?」
「あの子って……。ああ、片平さんのことね」
 大学のサークルで友達になった片平真凛をいつものパーティに連れていったのは半年近く前のことだ。
 詳しい説明はしなかったけれど、あのパーティにいた人間の殆どは同じ社宅で育った幼馴染たちで、大学生から社会人まで年齢にバラつきがあるのはそのせいだ。あの日、片平真凛は完全に『ゲスト』で、みんなの注目を浴びていた。本人は気が付いていなかったと思うけれど。
 あのパーティに友達を連れて行くということは、居並ぶ男子たちに『この子はお勧めですよ』と紹介することと同じだ。おかしな男はいないから、アプローチする男が出てきてもわたしは静観する。男女の付き合いは個々の判断で始めればいいし、わざわざ引き合わせる必要もない。山本が果敢に挑んできたのはちょっと意外ではあったけれど。
「ダメだよあの子は。お堅いし、彼氏と同棲中だしね。それでまたその彼氏っていうのが、頭脳明晰で学年一のイケメンなんだもん」
「ふうん」
 山本は口を尖らせた。
「沙穂ちゃんも、そいつのことが好きなの? 学年一のイケメンなんだろ」
「は?」
 意味がわからず、聞き返してしまった。
「イケメンだけと、わたしは別に興味ないかな。なんか、違うっていうか」
「……そっか」
「山本さんこそ、片平さんのことまだ気にしてるなんて、けっこう一途なところもあるんですね」
「え? いやそういうことじゃないよ。なんとなく思い出しただけ。もし付き合ったとしても、あの子と俺じゃ続かなかったと思うな。まぁでも……一途っていうのは当たってるかもしれないけど。沙穂ちゃんが連れてきた子だから、ちょっと興味があったんだよ」
「うっそ、笑っちゃう。山本さんが一途だって言うなら、世の中の浮気男の概念が塗り替えられちゃうね!」
「ほんと、ひでえよな……俺のこと何だと思ってるんだよ」
 山本は膨れてしまったがそれでもやはりどこか上機嫌で、わたしも楽しかった。
 窓の外を見る。方向音痴のわたしにも、車が都心を目指しているわけじゃないことくらいはわかった。
「ねえ、なんかイルミネーションから遠ざかってない?」
「だって今日、車で渋谷とか六本木とか行くのヤバいだろ」
 それは、そうだ。大渋滞にハマるに決まっている。わたしだってそんな目に遭いたくない。
「まあ、そうだよね。それに、そういうのは彼女と行ったほうがいいもんね……わたしと行くところじゃないよね」
「バカ、そういうことじゃないよ」
 山本は珍しくちょっと真面目な顔になった。わたしは黙って、FM局をいくつかチェンジした。面白い番組はやっていない。J-WAVEに戻すとクリスマスソング特集で、コールドプレイがかかっていた。
 人前だとひたすら軽そうな山本だけど、二人きりで会う時はそうでもない。
 ふと、山本の横顔を見つめた。昔からきれいな顔をしていたが、そのまま普通にカッコ良く育った感じだ。いつも優しくしてくれて、幼いころは無邪気に好きだった。『お嫁さんになりたい』とわたしが言うと、いいよ、ってあっさり答えてくれた。でも、山本はいつもたくさんの女の子にモテていて、一緒にいる女の子が次々に変わるような奴で。だからわたしもというわけでもないけれど、決めないでふらふらすることに、いつしかわたしも平気になっていた。これはこれで楽しいし、必要なことなのかもしれない、とも思う。
 車が住宅街に入り込み、一見何もないような場所で停車した。
「着いたよ」
「どこ? ここ」
「駅は吉祥寺が近いかな。オーナーさんが知り合いなんだ。前から連れてきたいなって思っててさ」
 住宅街の中の一軒家で、駐車場から正面に回ると、店先から暖かい光が零れていた。中に入ると雑貨ショップで、無垢材の床や棚やテーブルの上に所狭しとクリスマスグッズが置かれていた。
「わあ、可愛い……」
 店の中を歩き回り、あれこれ見ているうちに、一番力を入れているらしい商品がわかってきた。
「すごい……」
 思わず立ち止まり、手に取ってしまう。とても精巧で、本格的にできている。
「昔、好きだったろ? よく一緒に遊んだじゃん。俺、無理やり相手させられてさ……」
 ドールハウスの専門店なのだった。大好きで、幼いころはいつも両親にねだって買ってもらっていた。クリスマスプレゼントも、いつもドールハウスに関するものをお願いして……。とても懐かしい。
「どれがいい? プレゼントするよ」
「え、……いいよ、こういうのってけっこう高いんだよ」
「大丈夫だよ。沙穂ちゃんも知ってると思うけど、俺そこそこ高給取りだから」
 山本はそう言って、クリスマスバージョンの小さなドールハウスを買ってくれた。
 嬉しかったが、ちょっと困ってしまった。
 知り合いだというオーナーさんの手前その場で騒ぐのはやめたのだが、店の外に出るとわたしは言った。
「ねえ、お金払うよ。だって買ってもらう理由がないもん……」
「理由?」
 ふと、見つめられた。悔しいけどちょっとドキドキしてしまった。
「理由、言ってもいいの?」
「……ダメ」
 なんだか、聞いちゃいけない気がする。向こうもそう思うのかもしれない。山本はふうっと溜息をついた。
「そうだな。やめとこう。だって沙穂ちゃんとどうにかなるってことは、もう決まりだってことだからなぁ……俺、まだもうちょっと遊びたいんだよね。仕方ないんだよな、男は」
「やっぱり山本さん、最低。わたしだって遊んじゃうんだからね」
 頭から抱き寄せられた。
「好きだよ。でもさ、もう少し後がいいな。俺、沙穂ちゃんとそうなったら、もう沙穂ちゃんしか抱かないからさ」
「……調子いいことばかり言って。その手には乗らないんだから。いつか、山本さんより素敵なイケメンの彼氏見つけて、いなくなるんだからね」
 身体が離されたかと思うと、顔を持ち上げられてキスされた。
「ダメ、そんときは奪いに行く」
「ずるいよ。やっぱり、最低……」
 雑貨店の裏の誰もいない駐車場で抱き締められた。
 きっと、山本はまだしばらく遊ぶんだろうし、わたしもそうするだろう。先のことはわからないけれど、ドールハウスで遊んだあの頃みたいに、また二人きりになったりするのだろうか。
(そのときはそのとき、かな)
 わたしは山本の胸に顔を埋めた。



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 イブの夜。その頃、真凛と伊織は。


「俺、鍋にウィンナ―って反則だと思うんだけど」
「えーでもわたし好きなんだもん」
「いいよ、わかったよ……」
 23時。もうすぐイブも終わるという頃、わたしと伊織は鍋を囲んでいた。
 もちろん、こたつだ。狭い部屋は、二人の荷物で溢れかえっている。両親に事情を話し、来年はもう少し広い部屋に引っ越すことになった。
 そのせいもあり、伊織はバイトに明け暮れている。
「塾講師ってさ、よく考えたらクリスマスなんかあるわけないんだよな。受験生が相手なんだから」
「ほんと、大変だね……」
 帰宅は毎晩、これくらいの時間になる。冬になってますます忙しくなってきたようだ。
 二人で話し合って、クリスマスプレゼントは無しにした。それよりも引っ越し代金を貯めないと。まだちゃんと決まったわけではないけれど、伊織の提案もあり、もしかすると来年あたり入籍するかもしれない。学生結婚になるけど、ずっと一緒に住むならそうしてもいいかなあと、わたしも思っている。
「あー疲れた。鍋とコーラって本当に最高の相性だよな」
「それもどうかと思うけど……」
「用意してくれてありがとう。でもさ……。ウィンナーと湯豆腐ってやっぱり合わなくない?」
「別々に食べれば問題ないの!」
「いいんだよ、冗談だよ。ただ、俺の概念には無かったからさ。まぁでも、意外に美味いね。ポン酢と合うし」
「でしょ?」
 どうでもいい話で緩く盛り上がる。なんだかすっかり所帯じみてはいるけれど、幸せってこういう感じを言うのかもしれないなと思う。
 いろんな意見はあるかもしれないけれど、わたしは伊織がいればいい。
「ご飯はクリスマスっぽくないけど、実はケーキ作ったんだよ」
「お、すごい」
「でも、鍋でお腹いっぱいになってきちゃったよね。ケーキは明日かな」
「俺まだいける!」
 伊織が張り切って言うので、なんだか笑ってしまった。

高校生





                                    番外編おしまい^^

(表紙イラストを描いてくださった中田恵先生に二人の高校生時代のイラストいただきました!ありがとうございます!)

本編は大学生になっている二人ですが、私立高校の特別進学クラスでガリ勉していたころの地味可愛い雰囲気がとってもラブリーで素敵です!!そっちの番外編も書きたいくらいだわ……。




本編はこちら↓




イブになりましたね。素敵なクリスマスを。作中の曲^^


 
 
 
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